02 一人死ねば変わる未来(組石市立楓池小学校三年一組鈴木 縁視点)

 第三だいさん臨時りんじ若葉わかば教室きょうしつきゅう三のいち教室)はしろなカーテンが秋風あきかぜれている。

 臨時担任たんにん市場いちば 夕貴ゆうき先生せんせいは、玉浜たまはま先生みたいに怒鳴どならないし、理不尽りふじんにヒステリーにならない。

 普通ふつうのおじさん。



 二学期にがっき始業式しぎょうしきつぎに、きざし●●●ピー地獄じごくのせいで、玉浜先生がドクターテレポートではこばれて。

 だい大学だいがく附属ふぞく病院びょういん消化しょうか器科きかにゅう院しちゃって。

 しばらく退たい院出来ないんだって。

 だから、わたしたち第三若葉のケアをするために、二学期がはじまったばかりなんだけど、台よし小学校しょうがっこうからてん任してきた。

 組石くみいし教育きょういく委員会いいんかいは、「玉浜先生が兆部だけをおしえていたわけではない。三の一児童全じどうぜん員の見守みまもりを強化きょうかする」とめた。


 いきなり、椅子いすからがったのは、ならごと一切いっさいしていない、山関やまぜきくん地味じみかんじで。でも、じゅ参観さんかんたおかあさんは、あかるめの茶髪ちゃぱつで、とてもキレイなひと。デパートの化粧けしょうひんり場ではたたいているから、すごくかおりのひと

「ヤッベー。

 おとうと保育園ほいくえん、おむかわない!

 園のしょく員会で、はやめのおむかえだったー!……だれか、三ねん水飲みずのみ場掃除そうじ当番とうばんわって……くれないよなー。

 おっかないんだよなー、園の先生。

 お迎え遅刻ちこくのペナルティーあるとこなんだよ」

なんの職員会議?」といてあげたのは、やつだわらさんだった。

不審ふしんしゃ対策たいさく!」

「しょうがないわね。

 わたしが代わりにやっておくわ。ただし、明日あしたの給食当番を手伝てつだいなさいよ?」

「サンキュー、八俵!

 市場先生。おれさき出発しゅっぱつします!」

「わかったよ。

 山関君こそ、をつけるんだよ」と市場先生はニッコリわらった。


「先生からは連絡れんらく事項じこうはありませんか?」

いよ」

 日直にっちょくが帰りの学かつ進行しんこうつづける。

つぎ

 時間割じかんわりがかりさん、来週らいしゅう月曜日げつようびの時間割をげてください」


「月曜日の時間割は。

 一時間目、算数さんすう

 二時間目、国語こくご

 三時間目、魔水ますい

 時間目、理科りか

 時間目、音楽おんがく。学しゅう発表はっぴょう会の合唱がっしょうれん習です。

 六時間目、学習発表会のげきこおりおに』の練習初回しょかい……え?えええ?」

 時間割係のすずめばやしさんはかたまってる。

「……」

「日直さん?」

「「「……」」」

「さようならの号令ごうれい、どうしたの?」

 教室のなか無音むおんになった。

 ううん。

 皆のかないいきづかいがよくこえる。

「俺たち、べっとう校なのに?」

行事ぎょうじは不参加さんかじゃないの?」

「兆部とはん行動こうどうすんの?」

 皆がソワソワしはじめた。

 そこで、絹井きぬい君が一人ひとりをあげた。

「はい、絹井君」

「あの、ぼくたちがニコニコしていると。兆部とおなあつかいをしなくちゃいけなくなって。

 僕たち、三年一組にもどされるって、本当ほんとうですか?

 給食ものこしたほうが『衰弱すいじゃくしている』ように見えますか?」

 絹井君はじゅく内職ないしょくをせずに、真剣しんけんに、市場先生に質問しつもんした。


中休なかやすみ、ひる休み。グラウンドであそんだら、三年一組きって聞きました。

 玉浜先生も復帰ふっきちかいから、市場先生もいなくなるって。

 なあ、三組の山田やまだ先生にもわれたよな?茅中かやなか!」

「俺をきこむなよ、安城あんじょう……」

 組石マギボールしょうだんの茅中君と安城君がつかみいの喧嘩けんかを始めそうになって、市場先生にとめられる。


 あの地獄から、二週間。

 皆、落ち着きをり戻しているからこそ、見えない未来みらいになる。

 十一じゅういちがつの学習発表会は不参加だと勘違かんちがいしてたから、なおさら、未来が不あんになる。


 けっしたように、「兆部子分こぶんその一」の織越おりこし君がボソボソはなし始めた。

正直しょうじき

 兆部に調子ちょうしを合わせるのもきついんです。

 俺放課後ほうかごになると、ゲームはぬすまれるし。

 兆部、いえの中にあるお菓子かしもジュースも、かっ手にって帰るし。

 なつなんか、お中元ちゅうげんぱこえて。警察けいさつ相談そうだんしたら、すぐ、兆部からばこだけかえってて。

 兆部のおやに、『見えるところに出しておくほうわるい』っておどされて」

「お、俺も。

 お年玉としだまうばわれて。一えん返したから、チャラだって……わああああ!!!」

「兆部子分その二」の冬岡ふゆおか君がき出すと。

 次々つぎつぎ男子だんしがシクシク泣き始める。

「ボスザルさからうと、猿山から追放ついほうになるっていうのと一緒いっしょね。くだらない」と八俵さんが笑った。

 いやいや。

 八俵さんみたいに、魔じゅつがずばけて出来れば。いじめられないんだろうな。だから、ウジウジなやむ子の気ちなんて、わからないんだ。

 そういうところは、兆部にているよ……。

 でも。






「そんなのじょ子の方がひどいわよ。

 にゅう学式ちゅうに。

 女子全員、アレにスカートめくられて、泣きながらたいかんび出したのは忘れない。

 アレにゴマすりする馬鹿ばかが悪いのよ」






 あっ、ちょっとわすれてたかも。

 三年になって、学級がっきゅう崩壊ほうかいがものすごくて。

 それに、入学式の以外いがい、スカートはかなくなってたから。


 嗚呼ああ、皆のこころがザワついている。

 もう、「さようなら」をえば、放課後なのに……。



「さようなら」のあと

 わたしは廊下ろうかあるくのが億劫おっくうなのをおもした。

 地獄のさわぎの直後ちょくごから、二組から五組までの女子には、とても感謝かんしゃされた。

 大事なことだから。もう一、心の中でアナウンスしよう。




 二組から五組までの女子には、とても感謝された。




書類しょるいじょうでも、あの兆部と一緒いっしょのクラスでてくれてありがとう」とか。

生贄いけにえになってくれてありがとう」とか。

「四年のわりまでは、かえでいけ小に居られる」とか。

 でも、そうだよね。

 五年になれば、一泊いっぱく二日ふつか宿泊しゅくはく研修けんしゅう。六年になれば、しゅうりょ行。

 朝八あさはちはんから後三時半まで、おなじ学校生活をおくっているんだから。とまりになると、ストレスで具合ぐあいが悪くなって、たおれるはず。


 ただ。

 そういう女子とはべつに。

 兆部嫌悪けんおしょうの女子にめんかって、つばを飛ばされながら、きついことをわれた。




「兆部のせいで、だれか三の一の女子一人ひとり死ねば。小三でも、社会しゃかい学校送致そうちになったのに!!」って。




 三年二組の西国にしくにさん。このあいだまで不登校で。最近さいきん保健ほけん室と教室を行ったり来たりし始めた子。

 一組ではない、二組の女子がねらわれるのは、一・二組合同の体育の授業くらい。

 四月の体育の授業で、兆部にいかけまわされて。

 小学校を飛びだして、一時行方ゆくえ不明ふめいになった子。

 無人むじん交番こうばんけこんで、パニックになって、女せい制服せいふく警察かんがなだめても、交番の外壁がいへき要塞ようさい化して、体内魔水が枯渇こかつして、死にかけて、五月すえまで入院していた。

 家族かぞく以外のおとこひとはなすのは絶対ぜったい無理。

 同級生の男の子を見ると、頭痛ずつうと目まい、がする。


 すぐ、三年二組の教室から廊下に出て来た、三年二組のさわ先生に。

「あれだけ辛い思いをした西国さんと、学級崩壊に巻きこまれた君たちを比べられないし。こうなった西国さんの暴言ぼうげんめようがない。

 我慢がまんすると、内にためこんじゃって目なんだ。

 反省文はんせいぶんかせるけれど。

 西国さんの保護者に、暴言へきが無くなるまで、学校登校を許可きょか出来ないとつたえる」と、平謝ひらあやまりだった。


 わたしは二組によう事があるのだ。

 こんな口悪くちわるい女に付き合ってられない。

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