第2話 パーカー

 僕は今、とんでもない問題に遭遇している。

 初恋の従姉妹こと美晴さんが、小さな座卓を挟んで向かい側に正座している。


 会社でさんざん説教を食らってヤケ酒をしていた僕の前に、実に9年ぶりの再開と なる美晴さんが現れた。

 僕はとりあえず雨に濡れたいた美晴さんを家に上げ、風呂を貸した。

 そこまでは良かった。

 いや、30歳になった魔法が使えるであろう僕(つまり童貞)にとってはそこまでで も十分に刺激が強いのだが、なんとか理性を保っていた。

 しかし、彼女の濡れた服を洗濯しようとしたときに問題は起こった。


......下着、どうしよう。


 流石に僕の家には、女性ものの下着なんかない。

 当然、下着だけは乾かして使うとなるわけだが、うちの乾燥機は浴室一体型。つま り、美晴さんが風呂に入っている時点で使い物にならない。

 ならどうするか?

 手段はひとつ。


ドライヤーで乾かす。


 うん。無理無理無理無理。

 初恋の人の下着を乾かす?僕が?そんなの絶対無理!!

 そもそも、すぐそこに丁寧に畳まれているそれを直視することすら憚られる。

 あれ?そもそも女性ものの下着って、ドライヤーとかで乾かしていいんだっけ?

 やばい、何もわからない。

 本人に聞こうにも羞恥心が勝ってしまって、聞くに聞けない。

 とりあえず下着のことは本人に任せるとして、僕は着替えのパーカーだけを置いて脱衣所を出た。

 美晴さんの身長は150センチくらいだったと思う。僕が175センチで、僕が着ても 大きめのパーカーだったから、いい感じにスカートくらいの丈になってくれるだろう  と思っていた。というか、身長に25センチも差があっては丈の合うズボンが無かっ た。

 だけど、風呂から上がった美晴さんを見て、この判断は間違いだったと確信した。


めちゃくちゃ際どい。


 ゆるいパーカーから伸びる、白くて長い綺麗な足。太ももくらいまで見えている。

 先程は下を向いていたから気が付かなかったが、美晴さんの身長は実は160センチ くらい有った。

  つまり、僕の想定より10センチもパーカーの丈が短いわけであって、下手をすれ  ば彼女の絶対領域が見えてしまいそうになる。

 さらに風呂上がりの若干湿った髪がものすごく煽情的で、その全てが、端的に言う と”エロかった”。


「お風呂、ありがとう」


 そう言って、僕の向かい側に正座しようとする美晴さん。


やばい、パンツ見える!!


 僕は理性を総動員して彼女から目をそらすと、「風呂のお湯抜いてくる!」と叫び ながら急いで脱衣所に駆け込んだ。

 駆け込んだ先でとんでもないものを見てしまった。


 回る洗濯機の中に、先程まで入っていなかったはずの水色のものが見えた。

 一瞬だった。でも僕の脳は、無意識に”それ”が何かを判断してしまう。


 待て、落ち着け水島奏汰よ。

 そんなわけ無い。あんなに際どいパーカの下に何も着ていないだと?

 仮にも僕だって異性なわけであって、そんな格好で異性の前に出てくると思うか?

 あ、でも昔は一緒に風呂はいってたか。

 もしかして、僕って異性だと思われてない?


 そんなふうに思考がまとまらないまま、僕は部屋に戻った。風呂のお湯は抜き忘れ たいたけど、そんなことはもう頭の中に欠片も残っていなかった。


 そして今に至る。

 目の前に座っている従姉妹が、初恋の女性がパーカー1枚しか着ていないという事 実を知ってしまって冷静でいられるわけもなく、僕は忙しなく視線を泳がせていた。

 パーカーは座っているとさらに丈がギリギリになるし、僕だって意識しないように していても身体は反応してしまう。

 座卓で遮られてお互いの足元が見えないことに感謝した。

 仕方ないよね。男なんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る