第七話

「ああ―――この問題は結局エネルギー不足に集約されるんだよね」

「エネルギー不足?どういうこと?」

 垣間見えたアルレノの素を無視しながら、ソッフィオーネは回答を続ける。

「魔力不足ってこと。基本的な考えとして、海から地面へ、地面から人間へ、そして上昇して空、また海っていう風に魔力は循環すると考えられている。だからこそエネルギー不足なんて起こりうるはずがないんだけど…国土の減少のせいなのか、地にある魔力が大幅に減少しているという調査結果が国から出ている。その影響でどうなるかって言うと、地から人間に対する魔力供給量が減少する。あ、ちなみに巷でみんなが魔力の減少って言ってるけど、これ、正しくないよ」

「…ふむ?どう正しくないんだ?」

「正確には魔力供給量の減少による魔力の低下であって、人間の魔力許容量は昔から変わらないと言われてるよ」

 アルレノの疑問に、ジラソーレを抱きしめ続けていたスリジエが口を挟むように答えた。彼の回答にソッフィオーネは満足したように目を細めて頷く。そしてすぐに注釈を入れるように開口した。

「魔力を持たない人間にはイメージしづらいだろうから例を挙げると、魔力許容量というのがグラスで、人間の身体にはそれだけ魔力が収められるという器の大きさだ。そして魔力というのが水。昔の魔法使いはグラスに対して七十五パーセントほど水―――要するに魔力を持っていたけど、現在は三十パーセントほどだと言われている」

「すごく弱体化されてるネ!」

「そう―――昔はそれこそ国土を割るくらい、魔法士同士が強力で、大戦争を繰り広げていた。今ではそんなことできる魔法士なんていないし、生えている一面の木を伐採するくらいの力しか残ってないよ。王族にはそれで舐められているし。国も必死で割れた国土を復活させようと目論んでいるみたいだけど、今はまだ難しいみたいだね」

 地に落ちたソッフィオーネの言葉に、ぎゅっと抱き着いていたスリジエの腕が力強くなる。何事かとジラソーレは後ろを振り向くと、彼のエメラルドのような美しい瞳が不安定なリズムで揺れていた。断続的に吐き出された息が頬を擽る。

 彼を安心させるように腕を撫でると、びくり、と引き攣った。そしてすぐにジラソーレに安心させるように笑いかける。

「…ごめん、大丈夫だよ。ただ少し…考え事をしていただけ」

 ジラソーレは小さく頷いた。

「なんで国土を復活させるのが難しいんだ?」

 アルレノが落ちた空気を取り戻すように質問を繰り返す。ジラソーレは話についていけず、退屈を誤魔化すようにつま先で床を掻いた。

「文献によると、大魔法士・アルクスが王宮で処刑された時に国土であった東西が陥落したと言われている。つまり大魔法士・アルクスの”呪い”だとね。死後もなお発動し続けてる魔法なんて、どれだけの対価を彼が払ったのか分からないし、それは確実に一人の命以上の”ナニカ”であることは確定しているから、国も下手に手出しができないんだよ。それにすべては予測の域に過ぎないからね」

「随分と詳しいんだね、ソッフィオーネさん」

 上辺だけの陽気が漂うように、スリジエが言葉を紡ぐ。つま先を眺めていたジラソーレを咎めるつもりなのか、彼の腕が息苦しく胴に巻き付いた。

 スリジエの言葉にソッフィオーネは柔和でありながらどこか歪な笑みを浮かべて、緑色の瞳に影を落とす。そして緩慢な動きで回答した。


「うん、元々はこのフィオレニア王国の兵士だったからね―――嫌なくらいにそういう情報が入ってくるのさ」

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向日葵の踊り子は喋れない 東雲雨月 @shinonomeugetsu

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