第四話
レンガ造りの、近代的な機械が立ち並ぶ工場内。耳を劈くような金属音に、咄嗟にジラソーレは耳を塞ぐ。二日間の旅路で平衡感覚を失った身体を翻して、背後にあったサーカステントを見やった。入り口の幕が大きく捲られており、何人かの団員が天井にある”ナニカ”を取ろうとしている姿が視界に飛び込む。入り口付近ではメディチ侯爵ともう一人、黒い前髪で左目を隠した青年―――ソッフィオーネが言葉を交わしていた。
目的地のベッナには、魔法石を点検する整備施設がある―――ソッフィオーネはサーカス団『フィエスタ』専任の整備士であり、普段は魔法士が利用する武器整備を行っている。
「うわぁ~、僕、魔法科学を利用した武器なんて初めて見た」
スリジエは壁に立てかけられた武器を眺めながら感嘆の声を零した。団員たちは各々好きに過ごしていて、工場の敷地内に隙間なく収められたテント群の中で過ごすことを選ぶ人もいれば、ジラソーレやスリジエのように工場見学に赴く者もいる。
ジラソーレは退屈の溜息を吐きながら、ダフネがいないかと疎らに散った人の中から彼を探す―――その視界を遮るように薔薇が咲いた。
「誰をお探しネ?」
アルレノだ。目の前の手を弾いて、彼に視線を向ける。燦々と降り注ぐ太陽が彼の髪に吸収されて、茶髪の中に潜んだオレンジ色を濃く示している。スリジエとはまた違った色合いのグリーンアイズに、不機嫌そうなジラソーレが映り込んでいた。
『べ つ に』
「ダフネならアソコにいるネ!」
アルレノはそう言うと、工場の入り口とは真反対―――ジラソーレの後ろを指差す。アルレノの指先を辿って視線を流すと、ココア色のウォーキングドレスに身を包んだサクラと白シャツに鈍い茶色のスラックスを身に纏ったダフネが、機械の隙間から見えた。彼の髪の毛は美しく整えられており、おそらくサクラが整髪したのだろう。
もやり、と黒い靄が湧き上がって、胸の奥でつっかえる。ジラソーレは眉根を寄せて、工場の床を蹴った。アルレノの驚愕の声が耳を通過したような気がした。ダフネのもとへと駆けると、後ろから子供のように勢いよく抱き着く。
「うおっ、誰―――なんだ、ジラソーレか」
「あら、可愛らしいこと。ダフネに会えなくて寂しくなっちゃったのよ」
サクラの言葉を耳の片隅に置きながら、うりうりとジラソーレは彼の背中に額を押し付けた。ダフネは困惑の息を漏らして、ジラソーレの栗色の頭を柔らかく撫ぜる。
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