第十三話

 サーカスのある敷地に戻ると、空気の奥底がざわざわとしていた。本来のお客様入り口付近からサーカステントに向かって、人が溢れかえっている。何事かと首を傾げると、化粧を落としたすっぴんのアルレノ―――橙色が混じった茶髪に蛇のような緑色の瞳、全体的に軽薄そうな印象を受ける―――が、ジラソーレを見つけるなり飛びついてきた。

「すごいネ!すごいネ!」

 ぐらりと軸を失って倒れかけた身体を、背後に立っていたダフネの手が支える。

「危ない―――ほら、アルレノどいて。ジラソーレが死んでしまう」

「ワァ!これは申し訳ない!だけどビック・ニュウスだヨ!―――ニュウ・フェイスってやつサ!」

 後ろに下がったアルレノに安堵しながらも、ジラソーレは首を傾げた。理解できない単語だ。

「新しい団員が来たんだろう。ほら、お前が前にユーリさんと話してた、もう一人の男踊り子」

 ジラソーレは納得したように相槌を打って、人垣を掻きわけて歩を進める。サーカステント内に足を踏み入れる―――すると、団員や準団員がジラソーレを突き刺すように視線を穿った。

 びくり、と怯えて身体が震える。ダフネが落ち着かせるようにジラソーレの肩を抱いて、奥へ進むように促した。

「ああ、帰ったか―――ジラソーレ、待っていた」

 舞台の上からメディチ侯爵の声が響く。視線をゆるりと上昇させると、身長の低い侯爵の隣に少年が立っていた。背丈はジラソーレと同じくらいだろうか、肩付近まで伸びた切りっぱなしの金髪が照明に照らされて、髪の一本でさえ美しく揺れている。赤みのかかった白い肌は、隣にいるメディチ侯爵の陶器のような温かみのない肌と相まって、ひどく健康的で綺麗に見えた。

 団員らがみんなして騒々しくなる理由も理解した―――ひどく、美しいのだ。まるで絵画を彷彿とさせるような端正な顔立ちに、少し妖しげな緑眼。華奢ではあるが肉付きは悪くない―――男と一定数の女にはひどく持て囃されただろう。

「なんだ、早く舞台に上がってこい」

 メディチ侯爵が不機嫌そうに声を上げたので、ジラソーレは慌てて板を踏む。少年はにこにこと天真爛漫な表情で目を細めて、ジラソーレを見つめていた。

「彼の名前はスリジエだ。スリジエ、彼が話をしていたジラソーレ、お前の相方になる男だ」

「わぁ!嬉しいな、僕、ずっと君に憧れていて、会いたかったんだ―――よろしくね」

 差し出された手に視線を泳がせながらも、ゆっくりと指先に触れる。すると少年―――スリジエはジラソーレの手を捕まえるように、食い気味に手を握った。びく、と身体が跳ねる。

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