第7話 闇

 後日町には同時にあちこちの家の玄関前に鯨幕が吊るされたが、その後は目立った騒ぎもなく、雨も降らずあの地獄の様な祭りは嘘の様に村に平和が訪れた。


 祖母は祭りの一月後に死んだ。


 結局、龍心が大人になるまでは叔父の龍玄が神主を務めることになった。中学生になった龍心は叔父の補佐役となり来年の祭りの準備を手伝っている。大人になって自分が祭主になった時の為だ。


 父と祖母がいなくなり、母は以前より笑うことが増えた。


 だが龍心にはずっと心に引っかかっていたことが2つある。


 祖母が倒れた後、龍心は一度祖母の部屋の襖かれ漏れる声を偶然聞いてしまった。


「まだ死んではいけませんよ、お義母さん……もっと苦しまなければ」


 そう囁く女性の声を。


 中を見るのが怖くて龍心は逃げ出した。さっきの声は母ではない、母のはずがない。きっと叔母か誰か別の人が来て話していたのだとわざと思い込んだ。


 だが祖母の死後、母と自宅裏の納屋の整理をしていたら段ボール箱に入った大量の殺鼠剤が見つかった。母は「お祖母様が鼠退治のために買って保管してたのね、捨てましょう」と笑顔で言っていたが、昔納屋でハクビシンに襲われかけてから、祖母は納屋へ行かなくなった。それに家は3年前に改築したばかりで鼠は出ない。


 毎日祖母の寝室を訪れ、3食ご飯を運んでいたのも母だけだった。


 まさか母は、祖母の料理の中にアレを入れたのか?


 もう一つの疑問。


 それは祭りの時父が飲んだ御神酒のことだ。


 酒を用意したのは母だった。


 母はあの酒に何かを仕込んだのだろうか?


 龍心はずっと訊くことができずにいる。



                 

                   了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぎじむ たらこ飴 @taraco-candy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画