第5話 恋愛観

 授業参観日も無事終わって、日曜日。

 僕はすごく楽しみにしていることがあった。

 それは、年に二回行われる市最大のイベントだ。

 どうしてそんな楽しみにしているのかというと、そこで美羽たちが所属している吹奏楽部がアトラクションとして、演奏をするからだ。

 それもあって、美羽と寛人は金曜日に、


「日曜日に演奏するから、時間があったり予定がない人は、見に来てください」


と言った。さらに美羽は続けて、


「はるさんはもちろん来るよね?」


とみんながいる中でそう言った。

 僕は、中学生になってからずっととしてやってきたので、な美羽が、みんながいる中でそう言ったのも、自然なことだ。

 美羽にそう言われたので僕は、


「行けたら行く」


と美羽に伝えた。

 僕が「行けたら行く」と言って、本当に行くのは少ないが、女の子のお誘いの時は必ず行くと心に決めている。なので、今回も行くつもりだ。


 そんなこともありながら迎えた当日。

 僕は、演奏が行われるという場所に向かっていた。

 ちなみに、そのイベントというのは、全国的に有名なものなので、会場は多くの人で賑わっていた。


(絶対同級生に会うやん……)


 僕は、同級生に会いたくないという気持ちがありながらも、演奏が行われる場所まで歩いていた。

 会場に着き周りを見渡してみると、前の方には案の定、同級生やクラスメイトがいた。


(うわ……バレたくねぇぇ)


 僕はそう思った。

 なので、クラスメイトたちに気づかれないように、後ろの方から見ることにした。

 でも、


(美羽だけは、バレてもいいからよく見えるところで見たい。今日は美羽を見に来たんだから)


 そう思い、美羽がよく見える後ろの方に行った。

 ちなみにこの学校の吹奏楽部は、『県内屈指の強さを誇る』とだれかが言っていたので、すごく楽しみだ。

 そんな期待を膨らませながら見ていると、


(美羽ってクラリネットだったんだ。そして郡上結女がホルンで羽島芽依がトロンボーンか)


と彼女たちの担当している楽器をそのとき初めて知った。

 そして、その三人の中でもやはり、僕が一番見入ってしまった人というのは、『高山美羽』だった。

 そんな美羽を見て、


(やっぱり、好きな人の頑張っている姿を見ると、幸せになれる)


 そう思えた。

 演奏が終盤に近づき、美羽と同級生の女の子が二人で踊る時がきた。そのとき僕は、


(待ってました!本当に楽しみすぎる!)


 そう思っていた。

 そもそもなぜ僕が、踊ることを知っているのか説明すると、金曜日に『美羽が踊る』という話を大きな声で吹奏楽部の人たちがしていた。

 そして、それを偶然耳にしてしまったから、僕がそのことを知っているという訳だ。

 別に盗み聞きをしようとした訳ではなくて、その話が聞こえてきたから知っているというだけだ。

 聞いてしまったからには、美羽のダンスをどうしても見たいと思い、僕はこの場所に来た。


 それはさておき、今日踊る曲というのは、去年の春一期放送で大ヒットした、芸能界を描いたあのアニメのオープニング曲だった。

 美羽たちの準備が終わり、迫力のある演奏とともに、ダンスが始まった。

 そのダンスは、キレがあって、見惚みとれてしまうほどだ。

 踊っている美羽の姿は、僕にはすごく輝いて見えて、心から


(可愛い……学校ではあんまり見られないこんな一面もめちゃくちゃアリ)


 そう思えた。さらに、


(美羽は、吹奏楽部でクラリネットが吹けて、ダンスも上手いのか……)


 自分とは全く違うことを痛いほど感じた。

 そして、つくづく美羽は努力家だと思った。


 ダンスと演奏が終わり、会場から拍手がわき起こった。

 僕は踊り終えた姿を見て、


(やっぱり美羽には敵わない)


と実感した。


 でも今、そう感じることができるからこそ、僕は美羽を好きでいられるのだと思う。


 自分が尊敬できる人を好きになると、

『その人に近づくためには、振り向いてもらうためにはどうすればいいのか、自分と冷静に向き合える。そして振り向いてもらうための努力をするきっかけになる』

と僕は考えている。


 さらに、好きになった人(美羽)には、自分(僕)を変える絶大な影響力があると、僕は考えている。


 僕にとって美羽は、

『大好きになれた人。努力をするきっかけになれた、自分を変えるきっかけになれた人』

 つまり、唯一無二の存在だった。


 そして今日は、

『これからもずっと、美羽を大切にしていこう』

 そう思うきっかけになった大切な日だった。


 アンコールなど全ての演奏が終わり、募金をする時間になった。

 そこでは、楽器の修理をするためのお金を集めるらしい。

 その時間になった瞬間、かなりの人たちが募金に協力していた。

 なので、僕も周りの雰囲気に合わせて、新五百円玉を片手に、募金をしに行った。


 募金をし終わって帰ろうとすると、隣のクラスの今井広之助いまいひろのすけに声をかけられた。


「お!はるさん!来てたんだ」


 そう言った広之助に対して僕は、


「うん。来てたよ」


と少し素っ気なく返してしまった。

 正直このまま誰とも話さず帰るのは、少し寂しいと思っていたので、話しかけられるというのは嬉しかった。

 さらに広之助は、


「はるさんは今日、誰見に来たの?どうせ誰か狙いに来たんでしょ?」


と言った。

 さすが広之助だ。

 小学校は違ったものの、去年は同じクラスだったので僕のことをよく理解している。

 そう言われたので僕は、


「いや、そんなことないよー」


と明らかに棒読みで返してしまった。

 この返し方からして明らかに嘘がバレた気もするが、その辺は上手く察して、触れないでくれた。

 そんなやりとりを二人でしていると、


「こんなところで何してるの?」


と一人の女の子に話しかけられた。

 誰だろうと思い振り返ってみると、なんと『郡上結女』だった。

 二年生になってから、結女とはほとんどというか、一回も話していない気がする。

 でも広之助の顔が広かったがゆえに話すことができた。

 なのでそこは素直に広之助に感謝した。

 さらに結女は、僕に向かって、


「お金入れてくれた?」


と言ってきた。


(久しぶりに話すのに、当たり強くない?)


 そうも思ったが、冷静に


「入れたよ」


と返した。

 僕のその言葉を聞いて満足したのか、結女は、


「ふーん」


と言って、みんながいる場所に戻って行った。

 その後、広之助と僕の二人でイベントを見て回ってから、解散して帰った。


 ちなみにイベントを見て回るときに、美羽たちを見かけた。

 だが、そのときの美羽にいつもの元気はなく、かなり疲れた様子だった。

 なので、この日は一度も話せなかった。

 なぜそんなにも疲れているのかを一人で考えた結果、


(月から金まで普通に五日あった上で、昨日が授業参観日、今日はイベントでの演奏。今週は、ハードスケジュールで休む暇もなかったから、あれほど疲れていたのか)


という結論に至った。


 そんな感じで、沢山のことがあったが、無事に演奏とダンスを見ることができ、満足した気分で帰ることができた。

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