第4話 お弁当2

 新しく席も決まり、僕たちは号車ごとに集まって、お弁当を食べていた。


 食べ始めてから少ししたら、美羽や芽依たちは寛人と話し始めた。

 こうなるだろうと予想していたので、あまり気にしないようにと心がけて、僕はお弁当を食べ進める。


 寛人たちの会話が落ち着いたところで、


「はるさん」


と美羽が話しかけてきた。

 話しかけられるというのは、全く予想していなかったことなのですごく驚いた。

 僕はどうしようかと必死になって考えた結果、


(ここで面白いことを言えれば、美羽を笑顔にできて、面白いと思ってもらえる)


 僕はその答えに辿りついた。

 何か面白いネタはないかと自分のお弁当を眺めていると『ゆで卵』を見つけた。

 僕は『ゆで卵』をネタに、勇気を出して、美羽に話しかけた。


「突然だけど、ゆで卵ってそのまま食べれなくない?僕は食べる時は必ず塩をかけるんだけど、今日は塩がかかってないから食べれないんだよね」


 この話に対して美羽は、


「え?そうなの?なにそれ……」


 そう言った。

 若干引いているようにも見えたが、少し笑顔になっていた。


(もっと引かれると思ってたけど、意外と好印象?)


 そう思いながら、この流れで、僕の周りに座っている一号車の人たちに、


「誰か、塩持ってない?」


 そう聞いた。

 だが誰も塩を持っておらず、美羽は、


「じゃあ、クラスのみんなに聞けば?塩持ってるか」


と言った。

 僕はその冗談を真に受けて、


「誰か塩持ってない?」


と大きな声でクラス全員に聞いた。

 当然だか、誰も塩を持っていなかった。


「なんで塩がいるの?」


 色々な人にそう聞かれると、


「はるさんは、塩がないとゆで卵を食べられないんだって」


 美羽はみんなに笑いながらそう説明する。


 僕が美羽の笑顔が見れたことに感動していると、誰が扉を開けた。


「寛人ー。プレゼントあげる!!」


 大きな声でそう言って、扉を開けた男の名前は、一組の森宗人もりむねとだ。

 宗人は、寛人と同じ吹奏楽部に所属している。彼は、160センチ程の悠星と同じくらいの身長に、低い声、親しみやすい性格から男女問わず人気を集めている。

 そんな宗人は今日、寛人にプレゼントがあるらしい。

 そのプレゼントというのは、『ひろと』という名前のふりかけだった。

 そのふりかけは、パッケージに大きく『ひろと』と書いてあり、黄緑色を基調としたデザインで、中身は「広島菜」を乾燥させたものらしい。

 宗人曰く、


「寛人と同じ名前のふりかけが売っていたから今日のために買った」


という。

 宗人が、寛人のお弁当のご飯に『ひろと』をかけようとすると、


「いやいや、ちょっと待って。僕のご飯ふりかけかかってるし。今日はいい」


 そう断った。断られた宗人は、


「えーー?なんで?せっかく持ってきたのに……」


 残念そうに、そう言った。

 そんな宗人を見た寛人は、


「じゃあわかった。ちょっとだけかける」


 そう言った。寛人は、本当にちょっとだけ、自分のふりかけのかかったご飯に『ひろと』をかけた。

 そんなふりかけには、広島菜以外に何が入っているのか気になった僕は、『ひろと』を借りて、食品表示を見ることに。

 そうすると原材料名の場所に、「食塩」の表示があった。


「ねぇ、ひろとに食塩入ってるよ」


 僕は美羽を含めた周りの人たちに、探し求めていた塩があったことを報告する。


「え?よかったじゃん!それかけたら?」


 美羽がそう僕に勧めてきた。

 言われた通りに僕は『ひろと』をゆで卵に少しだけかけて、食べてみた。結果、


「意外とゆで卵とひろと、合うかも!でも塩が袋の下に溜まってるから、これには全然かかってなくて、塩の味はあんまりしないんだけどね」


と塩自体はあまりかかっていなかったものの、『ゆで卵』と『ひろと』の相性は意外に良いということに気が付いた。

 僕がそう言うと、


「え?そうなの?本当に?」


と美羽が問い詰めてきた。さらに続けて、


「じゃあもっとかけたら?」


と言ってきた。それに対して僕は、


「いや、もういいかな」


と返した。そう言ったら、


「え?じゃあ美羽がかけてあげる♡」


 めっちゃ笑顔でそう言った。それと同時に


(え?何あの笑顔?可愛すぎやろ……)


 そう思った。そしてこの笑顔は、間違いなく今日一番のものだった。

 そう思っている隙に、美羽は僕のゆで卵に追加で『ひろと』をかけようとする。

 それも少しだけではなく、中身を全部使い切るかのような勢いだった。

 なので僕は、


「え?ちょ、なにしてるの?」


と必死になって止めた。

 僕が必死になっている様子を見た美羽は、


「もうちょっとかけた方がいいかなって思って」


と笑いながら言い訳っぽいことを言った。


(うん、なるほど。僕のためにやってくれようとしたんだね。でもあのまま全部かけていたら、大変なことになってたと思うよ)


 僕はそう思った。

 そんなこともあったが、結果として、『美羽を笑顔にして、面白いと思ってもらう』という目標が達成できた。

 なので、僕は物凄く満たされていた。


 宗人は寛人にプレゼントをあげることができて、僕は塩(ひろと)を少しだけゆで卵にかけることができた。

 二人が満足したところで、このクラスの担任の先生が僕たちの元にやってきた。


「はいはい、宗人くん。自分のクラスに帰ろうね」


 先生は宗人にそう告げた。


「はーい」


と素直に先生の言うことに従って、宗人は自分のクラスに帰って行った。


 そんな感じで、僕たちの楽しい昼食は終わった。

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