第3話 席替えとお弁当

 後期の組織が決まり、席決めが始まる。


 この学校では、執行委員である班長が席を決める。

 同じ委員会の男女は同じグループになって、教科リーダーは人数合わせとして上手くやっていけそうなところに、グループ分けされる。


 話は少し変わるが、僕には気になっていることがあった。

 それは『美羽は寛人のことがなのではないか』ということだ。

 組織を決める前に、全員が公約用紙を書く時間があった。その時に、


「寛人!何の委員会やる?」


 美羽が寛人に問いかける。


「僕は、学級委員やる」


 寛人が答える。


「え?ほんと?美羽もやろうと思ってた。よろしくね」


 美羽が笑顔でそう言った。


(こんな笑顔のところ初めて見たんだが……美羽は寛人のこと好きなの?)


 そう思った。

 美羽と寛人は、この学校の吹奏楽部に所属している。

 なので、『その時によく話すからから、仲良くなった』。

 僕は、『美羽と寛人はそこまでの関係にしかなっていない』と、信じることにした。


 班決めが始まってから一週間後。

 遂に、席を発表する日がきた。

 休み時間になり、今日はいつになくクラスが賑わいを見せていた。

 学活が始まり、席の場所が書かれている机の大きさ程のホワイトボードを美羽が黒板に貼る。

 その瞬間、教室が歓喜に包まれた。

 僕もその席を見て、


(え?美羽と同じグループじゃん!!さらに隣の席!?最高すぎない?)


 僕はそう思いながら、これ以上ない程の幸福感に包まれてた。


 ちなみにこの学校は、席が縦六列に並んでおり左から二列を一号車、真ん中の二列を二号車、右から二列を三号車と呼んでいる。

 僕はそのうちの、左から二列目の一号車、前から二番目。

 美羽は一番左側の列の一号車で前から二番目だった。

 さらに、偶然かは分からないが寛人も僕たちと同じ一号車で、僕の後ろの後ろの席だった。


 全員が席を確認したところで担任の先生が


「それじゃあ、新しい席に替えてください」


と言い、クラス全員が席を替え始める。

 新しい席に替え終わった後、僕はあることに気がついた。


(え?なんでこんなに結女と僕の席が近いの?まさかの僕の右斜め後ろの席?マジか……話しづら……)


 そう、僕と郡上結女の席はかなり近くなってしまったのだ。

 結女は好きな人として意識をしてしまった異性の一人で、今回席が近くになって、気まずくて話すどころか関われない、そう思えてきてしまった。

 なので『半年間上手くやっていけるのか』がすごく不安だった。

 でも、なんとか上手くやっていけるだろうと信じて、半年間頑張ることにした。

 そんなこともありながら、二年生最初の席替えは終わった。


 席替えから一週間後。

 今日は僕たちの学校の、今年度最初の授業参観日だった。

 公立の中学校なので、いつもは給食だが、今日は参観日ということもあって、お昼は『お弁当』だ。

 いつもは、自分の席で落ち着いて給食を食べるという決まりになっているが、今日は違った。


「先生!今日は弁当だから、自由に移動して食べてもいい?」


 誰かが先生にそう尋ねた。

 どこの公立の中学校でもあることかもしれないが、行事の日はお弁当を友達と集まって食べるという風習があった。

 そこで先生は、


「確かに、今日はお弁当だしね。そうしてもいいんだけど……ねぇ、美羽さんはどうしたらいいと思う?学級委員として」


 先生が学級委員である美羽に尋ねる。

 小学校では先生がやることを指示して、それに従って行動していた。

 だが、中学校の先生は違った。こういう自由な時間は口を出さず、生徒の考えを尊重し、その意見を先生が通すといった感じだった。

 つまり中学校は小学校とは違い、自分たちが考えて行動するという、自主性を大切にする方針だった。

 なので先生は、美羽にどうしたいかを尋ねて、その意見を通す。それだけだった。


「え?私は、で自由に移動するくらいならいいと思います」


 美羽がはっきりと、そう言った。

 これも一人でお弁当を食べる人ができないようにという、美羽の配慮なのだろう。


(流石すぎる……)


 美羽がそう言った後、


「じゃあ、そうしよっか」


 先生が了承をし、席の移動が始まった。


 僕がどこに行こうか一人で考えていると、


「こっちくる?」


 誰かがそう声をかけてくれた。

 振り返ってみると、そこには高木寛人の姿があった。


(やっぱ、寛人は優しいぃぃぃ!)


「え?いいの?ありがと。じゃあお言葉にに甘えて」


 僕は、感謝の気持ちを伝えてから、寛人の方へ行った。

 ちなみに僕は、寛人の左隣に座らせてもらった。


 号車内での移動が自由ということもあって、当然のように美羽は寛人の近くに来た。


(さすがに両隣は埋まってるし、寛人の向かいに座るのかな)


 そう僕は思っていた。

 だが、まさかの美羽が選んだ場所は、だった。

 このことに衝撃を受けていると、


「何?嫌だった?」


と美羽が眉をひそめて、そう言った。


「いや。全然嫌じゃないよ」


 少し焦りながら、そう言った。


(本当はめちゃ嬉しいんだけどね……)


 口が裂けても絶対に言えないけど、僕はそう思っていた。


 そんなこともあったが、「いただきます」の合図で僕たちはご飯を食べ始めた。

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