第8章 3つの魂との共存

第43話 和楽 東南ノ国・三家 酔っ払いにご注意

 私の名前は、マリィ=フランソワーズ=レヴィ。

 フランシス王国の出身。一応、国家薬師。

 数えで16歳女性、種族は人間だ。

 金髪くせ毛、碧い眼が眠たげ、何故か未だに魔法使いの帽子と外套ローブが手放せない。


―――


 今から遡ること、約50年前。

 和楽わらくは東西の内戦になっていた。陰陽師、武士サムライ忍者ニンジャは東西それぞれの勢力下にいた。

 西ノ君にしのきみの御旗をかかげた西軍は、破竹の勢いで東部を制圧していった。

 ただし、竜国としては、東部の独立を承認した。東軍を解隊して、西軍と一緒に再編する。

 さらに、東方賢者オライントの指揮する親衛隊『ニンジャ』を作った。

 傀儡政権にされることを恐れた、東方大将軍は職を辞して、西ノ君にしのきみへ政権を返還した。

 軍からの圧力に対して、西ノ君にしのきみは竜国の皇帝と話し合い、結局、東方賢者オライントを総督に引き上げて、軍部の反乱を3か月で制圧した。


 サムライには刀を捨てる命令が出た。

 徴兵令により、一般市民が軍に入隊し、2年間の兵役を果たすことになった。

 ニンジャは職業として国家試験が必要となった。

 国民の兵役期間中、頭脳や身体能力の優れた兵士は、特殊部隊にあたるニンジャの試験に回された。

 陰陽師は裏で暗躍していた。

 西ノ君にしのきみが、自衛の面から親衛隊を残したため、陰陽師を解散させることはなかった。


 時は進み、今から約20年前、北員ほくいん戦争が起きた。

 富国強兵が進む中、北国のインペルが三韓府のすぐ近く、竜国の北部と東海へ進軍してきた。

 竜国や三韓府の援護なく、和楽の国はニンジャと海軍の力を持って、東海のインペル海軍を撃退した。


 そして今、陸軍、海軍、特殊部隊ニンジャの再編が必要になった。

 ラストサムライの時代が終わり、各部隊の上官が高齢により隠居を始めたためである。


―――


 私ことマリィは、元軍医総監であるリータさんに、東南ノ国・三家みやけで出会った。

 リータさんは、新聞社に自作の小説を送りながら、残りの余生を楽しんでいた。

 だけど残念なことに、夜遊びと酒と女の癖が悪かった。


 身ぐるみはがされて、パンツ1丁になっていた彼を、私は無視した。

 この猫人間にかかわると、厄介事になりそうな気がしたのだ。

 ただ竜蘭ロンランがリータさんに気づき、彼を保護した。


「おい、老いた身体で、いつまで若いころと同じ遊びをしてやがるんだ」

「おお、竜華ロンファじゃないか!」

「はいはい。ようやく成人して、竜蘭ロンランと名乗っているよ」

「そうかそうか」


 よっこらせ、と手を引き、竜蘭ロンランはリータさんを立ち上がらせた。

 そして、私を紹介してくれた。アルトは私の右肩にとまり寝ている。

 私が警戒していたので、竜蘭ロンランが質問してくれた。


「こいつがマリィ、魔力の量は常人離れした高さだけど、魔法を使えない病にかかっている」

「ふむ、西洋医学に病を解く術がなかったのかい」

「リータじいさん、病なのか、呪いなのか、その辺を教えてくれないか?」

「わしの知り合いは、和楽わらくの西部だけじゃ。だが、洛中の陰陽師のように、後天的に呪いをかけたのではなかろう。ならば、先天性の呪いとなり、生まれながらの病と同じだろう」

「そう。病なら誰か助けてくれる?」

「誰かのせいにするのは時間の無駄だ。自己の修行で、魔力の漏れを防ぐ方がいい」


 魔力の出力を調整。

 本当に、和楽わらくで薬師修行をすることになるのかもしれない。私は不安な顔をついしてしまった。

 リータさんは歯を見せて、快活に笑う。

 裸体のおじいさんは、私に答えを教えてくれた。


「マリィさんや。色々な人たちに、あーでもない、こーでもない、と言われて、気疲れしたろう。もう答えは出ているのではないじゃろうか」

「私は前世の魂と分かり合いたい。そして、私の体に魂を受け入れる修行をしたい」

「そうじゃ、少々問題があるからと、自分を嫌ってはならない」


 リータさんの、それ以上に、今まで色々な人たちと対話をしてきたことで、私は答えを出せそうだった。

 この日の夜は、リータさんの別荘に泊まった。

 次の日、私たちは船と馬車で移動して、西の最大の街、浪華なにわにたどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る