第42話 フランシス領コーチム~竜国(海竜・南竜) 竜の住処<4>

 南竜は、南大江が東西に突っ切っている。中州や湖も多くある。

 古くから竜国の首都として機能した時代もあった。

 3都として、大竜都と黒竜江と同列の都市が南竜である。

 大竜都にある中央政府の機能のうち1部を移転しているため、南竜は竜国にとって要だ。

 私たちが訪れた時点で、もう秋になるのだけど、残暑がきつかった。


 市内の仏教寺院のタワー内で、竜姫ロンキこと竜華ロンファは成人の儀を行っている。

 猫人、犬人、人々の熱気がすごいので、私はアルトを残して、早々に寺院から引き上げてきた。

 それはそれで。爆竹の音はここまで聞こえる。街に歓声があがっていた。

 竜姫ロンキは国民に人気がある。それとも、お祝いごとに南竜市民が便乗で楽しんでいるのか。

 どちらにせよ、南竜の街はお祭り騒ぎになっていた。


 空が暗くなり、羽ばたく風の音がした。

 南王・竜雨ロンユさんが私の下に飛んできた。

 どこに私がいるか、当てられている。

 これが魔力漏れ? 

 逃げ隠れしても無駄だというのか。確かに厄介事だ。


「さて、魔力を計る場所へ行こう」

「よく私の居場所が分かりましたね」

「君の位置は魔力で分かる。これはあまりいいことじゃないね」

「悪い人にも見つかりますね」


 私は顔をしかめた。

 竜雨ロンユさんは言語化して、この表情の意味を尋ねてきた。


「不安?」

「不安ですね。魔力を制御しないといけないってことは、何年修行すればいいんでしょうか」

「君の師匠はクロウド殿だろう。君の魔法出力のセンスのなさは聞いている。でも、逆だ。気力オーラを君の体内に納める修行だ。じゃあ、まず放出魔力量を計ろうか」


 そういうと、竜型になった。私は彼の背に乗り、山奥にある寺院に入った。

 私は竜の背から下りた。

 ドラゴン便は、アントリアでもある。退役ドラゴンにしか乗ったことがない。

 高貴な方の背に乗るのは、ちょっと躊躇いがあった。


「ありがとうございます。乗っちゃってから言うことじゃないとは思いますが、私が背に乗って大丈夫だったのですか?」

「うん、馬車より飛んだ方が早いでしょ」

「それはそうですけど。衛兵さん、役人さん、皆さん怒りませんか?」

「うん、最初は怒っていたかな。今は南王の特権として人竜変身トランスフォームは、スルーされるね。建前だけでもお気持ち、背中に乗ったのは内緒にしてね」


 寺院の人が3人やってきて、私たちへ拱手礼をした。

 一番偉そうなエルフの僧侶が竜雨ロンユさんへ話しかけた。


「王よ。王族以外の方の魔力を計るおつもりですか」

「うん。そのつもりだ。計測は160年ぶりか」

竜姫ロンキ様、以来です。前回も内密な計測でしたね」

「兄者たちは、古いしきたりにうるさいんだよねぇ。竜の女は国を傾けるから殺せって酷くない」

「そうですな。竜南の地は、竜類憐みの令のおかげで、姫様を受け入れることになったんでしたね」

「小坊主だった、お前しかもう、そういう話ができる相手がいないんだよね。大多数の人の命は短くて、世の中は都合の良いように出来事を忘れていく。でも、100年以上前のことだから仕方ないね」


 南竜は、しきたりに縛られ過ぎない。

 異邦人の私は、からくり機械で、魔力計測してもらった。

 想像通り、魔力メーターが振り切れてしまった。

 少しの間、みんな驚いていた。だけど、近年の一般的なアントリア人は、魔力という生命力が高い。

 私は高魔力を魔法として出力できないのだ。


「おそらく、マリィ殿は竜人の10倍以上の魔力を持っている。しかし、その気力オーラを制御する方法がほしいな」

「だいたい、想像通りです。お師匠、クロウドも私に魔法を扱う術を教えるのが難しかったから」

「焦らない方がいいね。竜帝は隠居しているから無しとして、魔力制御の術を教え請うならば、和楽わらく東方賢者オライントもしくは、西ノ君にしのきみだ」

和楽わらく……? 陰陽師がいる国ですか」

「それに、武士サムライ忍者ニンジャがいるとも言われる。まぁ、魔法使いの類は、陰陽師を足して、そんなところかな」


 カディの件もあって、闇魔法呪いを使う陰陽師の存在は知っていた。

 サムライとニンジャを私は知らなかった。

 山奥の寺院から、街へ戻った。

 竜雨ロンユさんの背に乗って悠々とした空の時間だった。


 竜姫ロンキは成人となって、竜華ロンファから竜蘭ロンランになった。

 アルトは彼女の肩に乗っている。


「成人の儀は終わったぜ。そっちの進捗はどうだ?」

「結局、何をすればいいか……検討中」

「なら、和楽わらくに行こう。竜国より、魔法使いの類に寛容だ。私の師匠オライントや専門家に頼んでみよう」

「私は過去の『私』と対話する自信がないや」

「最近は一番無防備の、寝ているときうなされていないよな。つまり今、ある程度、前世の力は制御できている。後は、マリィ自身が『彼女マリィ』とどう付き合いたいか、だ」


 竜蘭ロンランは、私の背中を手で叩いた。

下を向いて丸くなるな、背筋を伸ばして前を見ろ、と。


 私はもう魔力障害のせいと、半ば諦めようとしていた。

 もし仮に、ハイエルフの大魔法使い『マリン』の転生者が私だと言うのであれば、容易でない試練を準備するはずだ。

 レオニアで色々あって、私は『私』をずっと怖がっていた。もし分かり合えるなら、『私』と和解したい。

 南王・竜雨ロンユの伝手を使い、竜国から隣の島国、和楽わらく三家みやけに私たちは、船で渡った。

 魔力制御。体内から魔力漏れがなくなれば、私の人生を変える逆転の術になる。


 私はマリィ=フランソワーズ=レヴィ!

 私の仲間と一緒に、極東の島国へ旅に出よう!

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