第40話 フランシス領コーチム~竜国(海竜・南竜) 竜の住処<2>

 竜姫ロンキが口を開いた。


「パンサ、腐れ縁のついでだ。兄の南王・竜雨ロンユに、お前の手紙を渡して、商路がないか口説いてみる」

「悪いな。マリィはどうする?」


 私は、どう移動しようかな。

 ただ、パンサの商船で移動はここまでだ。ずいぶん、お世話になった。

 私はお礼を口にした。


「ありがとう。私は、極東の旅を続けるわ。竜姫ロンキについて行って、東方賢者オライントに会う」

「気をつけな。竜人は血の気が多い」

「私は寛容だ。兄の竜雨ロンユも優しい」


 真顔で竜姫ロンキがパンサさんの話を訂正するもんだから、私はおかしくて笑いそうになった。

 すると、先ほどの女が、私に手紙を渡してきた。そして、足早に去って行った。

 お師匠クロウドから手紙がついた。


『親愛なるマリィ


 よく無事に、コーチムについた。

 さすがだよ。


 これから先の旅路は、絶対に君は臆病になるだろう。

 東方賢者オライントも人間だ。

 選択を間違うこともある。


 君の魂は、君の身体へ必ず返る。

 魔法が解けるまで、時間がかかる。

 だけど、マリィは『マリィ』だけを信じてあげてほしい。

 何なら、私を信じてもいい。


 色々と、その前兆を経験しただろう。

 もう自分が何者であるか、きっと分かっているはずだ。


クロウドより』


 行間を読まないと、よく分からない手紙だ。

 ただ、お師匠に見守られている気がする。

 私は手紙をローブの中へしまった。


 パンサさんに、銀のスプーンを渡した。

 当然、彼は戸惑った。


「これ、大事なものじゃないの?」

「大事だから、もらってください。フランシス王の妃からいただいた品です」

「あぁ、気づいていたんだね」


 私は、食事周りの手伝いをしていたので、切り詰めている備蓄の量は知っていた。

 それに、エンジン担当の乗組員が、船を動かす油が足りないので、困った顔をしていたのを、私は何となく覚えていた。


「帰りの船を動かす分、補給するにもお金がないんですよね」

「ははは、貧乏船で申し訳ない。だから、南王の竜雨ロンユに手紙と一緒に渡してほしい。この純度の銀を換金できる商人がコーチムにはいないよ」


 竜姫ロンキの肩に、アルトが乗っていた。

 下船した私は、彼女たちのところへ合流した。

 手紙の内容は伏せたけど、パンサさんの要望だけは話した。

 そして、竜姫ロンキに銀のスプーンを渡す。


「マリィ、本当に兄貴へ銀のスプーンを渡してしまうのか」

「えぇ。緊急事態でしょ」

「お前は良い人すぎる。他人を欺くことがないんだな。これは嫌味だけど、タークの書面にフランシスのお墨付きがついてしまうぜ」

「そうね。でも、あなたの兄王なら、この状況に理解を示してくれるでしょう。それにエレン妃なら、私がした行いに賛同してくれるわ」

「ま、そうとも言える。相手が竜人であれば、年齢的にみんな小僧扱いさ。それなら、金で信用を買ってもいい」


 話の内容より態度で分かる。

 竜姫ロンキの声が上ずっていた。彼女の感情が表に出る。

 どうやら、単純に自分の兄と久々に会うので緊張していたようだ。

 どう説明するか、何回も口に出して練習していた。


 すぐに飽きたらしく、手紙につける手紙を書き出した。

 マリィも銀のスプーンをつけるなら、私が手紙をもう1通つけてもいいだろう、って。

 まぁ、そうね。

 小難しい相談では、事前に手紙などで話を通していた方が、対面で口を開いたとき楽になる。


 竜姫ロンキが手紙を書く間に、私は竜国へ向かう手続きを終えた。

 私たちは客船で、コーチムから竜国・海竜の街へ渡った。 


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