第38話 東エンドラ 火と水のせめぎ合い<4>

 川の前の大広場。

 赤い布を頭にまいた火の連中と、青い布を頭にまいた水の連中がぞろぞろ集まっていた。

 その周りを数名のアルビオン駐在兵たちが囲んでいた。


 ドラムが鳴り、盛大なダンスバトルが始まる。

 全員が息を揃えて、超高速ステップを踏み出した。

 それから、体幹はブレずに、両腕を左右にグネグネと動かす。

 軍隊における集団行動のように、規律よく、赤の連中と青の連中がそれぞれ踊っている。


 アルビオンの駐在兵たちは、口笛を吹き、ダンスを楽しんでいる。

 もはや、国内の取り締まりは忘れたようだ。


 カディさんが、私たちに聞く。

 現実逃避した竜姫ロンキは、白目を向いて、おそらく失神している。

 なので、また私が返事をする。


「エンドラのダンスをご存知か?」

「あ、はい」


 結局、私は生半可な返事になった。

 エンドラのダンスを一度見てしまったら、一生忘れないだろう。

 血沸き肉躍る。カラフルな粉を砂と一緒にダンスの動きで吹っ飛ばす。

 超高速がシン高速に、足のステップはさらに加速する。

 ぞろぞろ脱落者が出てきて、見る限りでは2~3人がステップをまだ踏んでいた。


 アントリア人の知る、タンゴ、スウィング、フラメンコ……といったダンスではないんだけど。

 エンドラ人の誇り高きダンスであることは分かった。


 結局、ダンスバトルで、とある1人が優勝した。

 野次馬となっていた駐在兵たちは動かず、商船から茶葉を落としたことは不問になったようだ。

 スパイシーでフローラル、エンドラのハイテンション・ダンスは神がかっていた。

 勝敗、金銭の売買、カースト制度で上か下か、それらの詳しい経緯は、みんなどうでも良いらしい。


 それで、エンドラのダンスは世界を救うのか?

 うーん、私には分からない。

 がんばって翻訳の魔法で、行間読んでも意味不明だし。

 このダンス、字幕では追えない。

 これ以上、この地に留まると、アントリア人の私は混乱してしまう。


 カディと竜姫ロンキは握手して、ついに和解した。

 これもダンスの力なのだろうか。


―――


 そのタイミングで、パンサさんが私たちを迎えに来た。

 アルトは彼の肩に乗っている。私の右肩に飛び移った。

 おかえり。


 船の補給が完了したので、次の地へ向かうようだ。


「おーい、そろそろ船を出すぞ。なんだ、このダンス。みんなノリノリじゃねーか」

「ノリノリですよねぇ……」


 私はマリィ=フランソワーズ=レヴィ!

 仲間たちと一緒に、東へ向かって船旅に出る!


 いよいよ、極東の地に入る。目指すは、フランシス領コーチムだ。

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