第37話 東エンドラ 火と水のせめぎ合い<3>

 無言。

 竜姫ロンキの強い視線を感じる。

 怒っているわけでない、とは思う。

 先に私が話すと、竜姫ロンキは私に合わせて話せる。

 ただ、それだけ。

 分かっていても私は、申し訳なくて、謝るしかなかった。


「ごめんなさい。話しているうちに、ヒートアップしてしまったわ」

「その問題は済んだ。火と水の同盟、それぞれの代表に会ってきた」

「私の誘拐で、そこまでやってくれたの。ありがとう。でも、問題は解決済みなのね」

「あぁ、誘拐の件は奴ら気にしてなかったぞ」


 ここで、カディさんが竜姫ロンキに話しかけると、彼女は嫌な顔をより一層深めた。

 竜姫ロンキは、かつて、この地の仕事から逃げ出した。

 今、彼女はマジャからコルタに戻ってきた。

 かつて逃げた手前、火と水の同盟に話しかけるのは大変苦痛だったはずだ。


「この地から逃げた竜華ロンファがマリィ殿を助けに来るのも、また因果応報だな」

「カディ……、マリィが世話になった」

「礼には及ばんよ。だが、火の連中、水の連中、とはどう話をつけてきた?」

「先ほど言った通りだ、マリィという女は知らん、と。別の問題があるから、それは踊りで決着をつける、とか意味不明なことを言っていたぞ」


 竜姫ロンキは、目頭を片手で押さえた。

 確かに、踊りダンスで決着をつけるなんて、どこの国にもない風習だ。

 私もよく分かっていなかった。

 カディさんは半笑いの表情アルカイックスマイルで、竜姫ロンキと私に話してくれた。

 仏像のように東洋人の表情は繊細で読めない。


竜姫ロンキが20年ほど前に去った後、アルビオン総督の軍に喧嘩を売り、逮捕者が大量に出る、乱闘の流血騒ぎになりかけた。当時、彼らはアルビオン人の前で、激しく美しいダンスを踊ることで、争いを鎮めることができた。だから、今のエンドラでは、争いごとをダンスで鎮める」

「「え?」」


 竜姫ロンキと私は、映画のような和解案に、かなり戸惑った。

 カディさんは、口を開いた。竜姫ロンキが黙ってしまったので、私が話す。


「商船から茶葉を捨てた、捨ててない、の争いを今日、ダンスバトルで決めるそうだ」

「なぜ、そうなった……。駐在のアルビオン人は何か文句を言わないんですか」

「いいや、アルビオン本国から連絡を待っていたら、いつまでも裁可できないからね。100年戦争の余波で、アルビオン駐在兵もエンドラ人の要求をかなり聞き入れるようになったんだ」

「どう決着になるんですか」

「見れば分かる」


 しっくりこない。

 現場で踊りダンスを見て納得する方が良い。

 私たちは、赤、もしくは青のターバンを頭に巻いた人たちについて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る