第6章 火と水のせめぎ合い

第35話 東エンドラ 火と水のせめぎ合い<1>

 私の名前は、マリィ=フランソワーズ=レヴィ。

 フランシス王国の出身。一応、国家薬師。

 数えで16歳女性、種族は人間だ。

 金髪くせ毛、碧い眼が眠たげ、何故か未だに魔法使いの帽子と外套ローブが手放せない。


 東エンドラのベルダ地方にあるコルタ港は騒がしかった。

 ベルダ地方は、東西で主な宗教が違っていた。

 主な宗教は、過激派ガダ教、穏健派のベダ教に分かれて対立していた。


 元々、アルビオンは、貿易会社をコルタに置き、実質的に植民地としていた。

 本土の戦争状態により、支配力が弱まったアルビオンは力で従えることが出来なくなっていた。

 エンドラを実質支配するために総督府が置かれていたが、今では総督権限でさえ効かない統治の機能不全状態だった。

 もうアルビオンとエンドラの国同士の主従関係が云々より、今、宗教対立がこの地のネックになっていた。

 ベタ教とガダ教、それに少数部族の土着宗教だ。

 この地にクロスト教の信者は、ほとんどいない。


 港に集まった民衆、リザードマンたちが、商船の積み荷を海へ投げ捨てていた。

 アルビオンの兵士たちは、破壊活動を行うリザードマンと黒エルフ、エンドラ人を捕まえようとしたが、一斉に散った。

 よく統率された反逆者たちだ。軍人が後手になる。


 私たちの隣の商船から投げ捨てられた、茶葉が海面に浮かんでいた。

 竜国産だろう。フランシスでも高額になる。私は買えない。もったいない。

 竜姫ロンキは、困った顔で言う。


「アルビオンと竜国、その貿易の中継地に使われていたんだ。綿花、茶葉、それに銀。だが、東エンドラは、力が弱まったアルビオン人を排除しようとしているんだ。あの商船の積み荷を海に投げ捨てたのもアピールで、外国人排斥運動の1つだろう」

「民衆の強い怒りを感じるわ。もちろん、目に見えた排斥運動も含めてね」

「そっちは船の出口だぞ。マリィ、町に出るのか?」

「南の国、特有の香辛料を見てみたい」


 下船。

 その間に商船は、燃料や食糧を補給する。

 竜姫ロンキは護衛について行くと言うので、私は受け入れた。

 民間療法の薬屋、金属のジャンク品の店、そして香辛料を売る店。

 リザードマンたちと黒エルフたちが露天商をしている。


 口元が笑っている店員さんたちが多い。

 だが、ほとんど表情に変化がない。

 フランシス人の私にとって、薄い笑顔を向けられた、と感じた。

YESはい』の仕草が、正面を向いたまま、首をかしげる。

 なるほど、この国の仕草は、アントリア地方とは違う。


 竜姫ロンキは私に、強気な態度で翻訳能力を出さない方がいいとアドバイスしてくれた。

 私は分かったつもりでいた。

 だけど買い物では、お師匠譲りの強気な態度になる。

 香辛料の値段を値切ろうとして、ついヒートアップして、現地語を話してしまった。

 竜姫ロンキの顔色が悪くなる。私は彼女に睨まれた。

 アドバイスの真逆をしてしまった。


 私たちの足下で、白い煙が起きた。通行人が煙玉を投げたのだ。

 ホワイトアウト。竜姫ロンキを私は見失った。

 その煙でゲホゲホと咳き込んでいると、私は角材で殴られて失神した。

 赤いスカーフをまとった宗教団体、3人によって私は連行された。


―――


 目を覚ます。

 とりあえず、角材の打撃で、私は死んでいなかった。気絶で済んでよかった。

 私はベッドの上で眠っていたらしい。頭の傷も包帯が巻かれて、手当されていた。

 顔や体に包帯を巻いた青年が、私に話しかける。


「お、目を覚ましたかい。吐き気や痛みはないかい」

「はい。吐き気も痛みもないです。少したんこぶになっていますね」

「そうか。私に敵意はない。警戒しなくてもいい。いつも火の連中は、ただ歩いていただけの金髪碧眼の外国人を襲う。だけど、私たち水の同盟は、軍人や警察など統治者たちに対してのみ反抗している」

「火と水?」


 私はエンドラの国をよく知らない、赤い火と青い水の内紛にかかわってしまったようだ。

 すると、彼はスプーン2本を私に返した。

 私は上半身をベッドから起こし、スプーン2本をローブの中にしまった。


「火の同盟者に、このスプーンが見つからなくて良かった。お嬢さんは、アルビオンか、フランシスから来た旅人かね」

「助けてくださってありがとう。フランシスの出身、マリィ=レヴィです」


 エンドラの言葉でなく、彼はもっと東の国の言葉で話した。


「どういたしまして。私は、デンシロウ=カデイだ。皮膚の病で、包帯を巻いているが、悪いことはしない。よろしく頼む」

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