第33話 ミスルのスライム巫女とオットーの商船<5>

 私は彼女にすがり付いて、泣き続けた。竜姫ロンキが私の背中をさすってくれた。


「消音機つきの銃で撃たれるなんて……」

「あぁ、完全に海賊の武装を読み違えた。このエルフは私よりも早かった。だから、その命をささげて、彼女はマリィを助けてあげられた」

「どうして、私なの!」

「魔法衣が悪目立ちしたのかもしれない。だけどマリィ、お前の命は助かったじゃないか」


 アルビオン艦隊は、被害状況を確認すると、赤の海ルーゼを北上していった。

 ブラウン以外で、商船の傭兵たちに、命を落とした者は他にいなかった。

 赤の海ルーゼを出たところ、ルブラ海にブラウンは葬られた。


 いつまでも泣いていられない。

 分かっている。もう私は子供じゃないんだ。

 いつの間にか船から消えていた、アルトが飛んできて、手紙を私に落とした。

 今どこにいるか分からない、お師匠クロウドからの手紙を持ってきた。


『親愛なるマリィへ


 君は自分の能力の強みと弱みに気づいただろう。

 下手に動くと命にかかわる失敗になる。

 上手に動くと一世一代の栄誉に繋がる。


 私たち魔法使いの祖である、

 ハイエルフにして、大魔法使いマリンは、魔法使いの在り方について言った。


【魔法とは弱者の救済だ。

レヴィ族のもたらした魔法は、

それをもって一般的な人間と対等になった。

つまり、魔法使いは何か欠落した劣等者だったのだ。

大地から魔力を得た人が生まれる頃、

人間が持つ魔法は解ける。

テラ帝国が滅びたように、魔法使いもいずれ消える。】


 おそらく、私たちの代で、魔法使いは消える。

 それは悲しいことのように見えるけど、同時に人類の進歩であるのだ。

 魔法がない世界、きっと天からも祝福されることだよ。


 だから私は、マリィが薬師を目指すことを心から祝った。

 もう魔法使いなんて、昔の話で聞いたことがある程度でいいんだ。

 私たちも真に自由になろう。


クロウドより』


 私と仲間たちを乗せた商船は、海を東へ進む。

 私は遠くを眺めていた。波の向こうから昇ってくる太陽。

 水平線の果てが赤く燃える。


「私たちが最後の魔法使いか。それにしても、弱すぎるぞマリィ。仲間に守られなければ、すぐ死んでしまうくらいに」


 私は弱い自分に話しかけた。これは、独り言だ。つぅーと、頬を涙が伝う。

 その分、多くの人たちに助けられる。いつまでも泣いているわけにいかない。


 私は生きる。それがブラウンへの一番の恩返しだ。


 アルトは私の足下で寝ていた。他の乗組員もまだ寝ている人が大勢いた。

 今、起きているのは、見張りの人くらいだ。

 でも、とても空しい。このむき出しの感情が収まるのだろうか。


―――


 日が昇ると、パンサさんと竜姫ロンキが起きてきた。

 物資補給と給油で、東エンドラに船は立ち寄るらしい。

 今も名目上は、アルビオンの植民地だが、ほぼ毎日、エンドラ国内のどこかで暴動が起こっている。かなり大きい宗教対立も起きている。

 だから、東エンドラは安全ではない、とパンサさんは言う。

 私は口を開いた。私たちは運命に縛られない。


「運命に引きずられるより、運命を私たちが引きずり回すの。東エンドラに立ち寄るなら、その時間を楽しみましょう」

「おうよ!」

「うむ」


 私はマリィ=フランソワーズ=レヴィ!

 仲間たちと一緒に、東へ向かって船旅に出る!

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