第31話 ミスルのスライム巫女とオットーの商船<3>
セナさんはハッとした。私も、雨乞いの方法を書籍で探す作業に戻る。
つい、歴史に浸ってしまった。
「これだ……。あー、やっぱりレヴィ記と、気象学の書物を合わせて解読するのか。雨乞いの儀式、1人で探しても見つからないわけだ」
「お役に立てたようで良かったです」
「大事な話。マリィ、私と約束しよう」
「何のですか?」
「古い文献にはまり過ぎて、解読を趣味にしない方が良い。君の魔法はいくらでも、他人が悪用できる。こんな深淵の底を真っ当な人間なら見ない。その方が長い人生良いことが多い」
「それは……。えーと、うーんと……」
セナさんは、私の将来を心配して言ったんだろう。
私は心の奥底にある野望を阻止された。
この期に及んでも、私は魔法使いに執着していたのだ。
彼女は、私の顔をじーっと見つめていた。
「手紙で、ガラハが心配していた。私たちの共有する魔導書の解析を、本気のマリィが10年かければ終えることができると思う。ただ、マリィの頭脳は色々な人の念によって、再起不能になるって」
「やっぱり、私の翻訳魔法は身体を壊すんですね。魔導書から離れないといけないくらい」
「魔法使いにならないために薬師になったんでしょ。クロウド先生はマリィが魔法使いになりたくないって言ったのを喜んでいた」
「あれ、なんでお師匠が? 今、薬師のマリィは生活費に困っているんですけどー」
「君の魂は特殊だ。魔法使いを目指すと、短命になるんだ。不幸な事件にも巻き込まれやすいだろう。暴風のように荒れて、周りの大切な人も離れていく。そんな人生は生活費に困るより厳しいと私は思うよ」
「じゃあ、私は何者になれるのでしょうか」
「それを聞く相手は、私でなくて
占星術を扱う、巫女セナさんは、未来視の魔法が使えた。
私の運命は、どういう道を目指すかで、だいぶ変わるようだ。
それで、あまり未来にかかわる話をしない方が、私に選択の自由ができるらしい。
あまりにも波長が合い過ぎて、セナさんは私と本旨から脱線した話をしてしまった。
ごめん、とセナさんの口は笑っているのに、彼女の幼さが見える目は寂しそうだった。
―――
それから何日も経たず、
序で、パンサさんたちは、上手くいかないダウジングをようやく諦めた。
巫女セナさんよる、雨乞いの儀は成功した。
何か月ぶりに雨が降って、乾燥した砂漠を水が潤す。農業が上手くいくかは、これからの雨の降り具合による。
私たちの船は、ズサラ運河の通航が出来るようになった。
セナさんが許可を出した。
出航前に、セナさんと私は話し合った。
「雨が降らないときに、無理やり雨を降らせた。あらゆる運命を捻じ曲げるのは、ちょっと私はこわい」
「でも、
「少し視えた未来だったから、それは変わったかもしれない。船がズサラ運河に入ると、そこは
「セナさん、ありがとうございます」
自分に都合のいい魔法だけを連発すれば、悪い流れがやってくる。
魔力が高い人間が多い現在では、その魔法の出力失敗の弊害は大きい。魔法を放った当事者だけでなく、周りの人や環境への悪影響もある。
だから、天地を動かすレベルの大魔法は、クロスト教の国々ではタブーだった。
海賊との戦いに備えて、パンサさんは何人か傭兵を雇った。
パンサさんの大型商船に乗り、私たちは東を目指す。
私のとなりに立つ、
「何となく嫌な感じがする。世の中の陰陽は、天秤のようにバランスとっているからな」
「うん、私たち、上手く行き過ぎている気がする」
「嫌な雲行きだぜ。無理やり雨を降らせた代償がやってくるかもな。とりあえず、警戒はしとこうぜ」
「そうね。警戒して、何もなければそれでいい」
ちゃんと雨乞いしたはずだ。
私たちは上手く行き過ぎていることで不安になっている。
この気持ちは初めてだ。
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