第25話 マジャ 廃れた炭鉱と借金<3>

 錆びたレールに乗って、列車は走る。

 車輪がレールに接触した高い音で、耳がキーンとなる。

 ガタガタと席に座っていても、お尻に訴えかけてくる。安定感がない。

 この感じ、陸ドラゴン便を思い出す。


 隣では、フランシス兵が竜姫ロンキに視線を向けている。

まるで罪人の監視のようだ。


「竜人の扱いは、この国ではこんなもんさ。貧乏な国の監視者ほど厳しい対応をしてくるんだよなー」


 竜姫ロンキの口はフランシス語で喧嘩を売る。

 フランシスの兵士たちは、咳払いをした。少し苛立ちが見える。

 おそらく、竜姫ロンキは脱走の常習犯だ。そんな雑な彼女がラヴィ鉱山の監督なのだ。

 東方賢者とのつながりも気になるところだ。全部、何か訳ありだろう。


 坑道の近くまで、列車で近づいた。私たちは下車すると、少し歩いた。

 向こうから、つるはしを持った鉱山労働者たちが、石炭を一輪車に乗っけて歩いてきた。

 竜姫ロンキは彼らにも舌打ちされていた。


東方賢者オライントの方が逃げ上手なんだけど。やっぱり、煤臭いところで働きたくないじゃん。逃げ上手なのは、師弟そろってだぜー」


 逃げ癖。

 冗談なのか。真剣な悩みなのか。

 たぶん、竜人のプライドと鉱山での労働について、半々で思うところがあるんだろう。


 労働者の共同生活寮に着いた。

 フランシス兵たちは、竜姫ロンキの拘束を解き、監督室の鍵を渡した。

 私とアルトだけ伴い、彼女は部屋の鍵を開けた。

 宝石、衣服、珍しい香辛料、本、ただそれらが乱雑に散らかった部屋だ。

 どうも、彼女は片付けが苦手らしい。


 もっと苦手なことが分かった。

 金銭のやり取りだ。

 フランシス兵は、チップを彼女が適当に与える、と去って行った。


「この地はマジャと呼ばれるが、正しい呼び方ではない。マゼリヤが正解。この地が、オットー、ハイネス、テラリアの諸国と、宗教のクロスト教徒とガダ教徒に蹂躙されてんだよなー。この辺りラヴィでも安全じゃないし、誰だって逃げたいと思うだろうさ」

「そういえば、買い物のとき困ったんだけど、統一通貨がない国なの?」

「国? なんだそりゃ? 9年間、ここの監督をしているが、この土地は、ほぼ無政府だぞ。通貨での買い物より物々交換が多い。それに今、戦争をしているから、軍人が偉そうな顔で歩いているんだよなー」

「そりゃ、治安が悪いと、スリも多いわけだ……」


 竜姫ロンキの山積みになっている私物を、私は避けて座る。

 すると、黄色い粉が入った袋が出てきた。私は薬師なので一発で分かった。


「希少な粉、これはサフランじゃないの?」

「やっぱり、そうなんだなー。アーク・サザン大王が重宝した黄色い粉って、うさんくさい商人と物々交換したやつ。私はその辺、よく分からないし、いらないからあげる……」

「ダメ! 高値で売りなさいよ!」

「今さら、私に商人の真似をしろって言うのか。商売は向いていないんだよー」

「そう。それが街を無政府状態から、商工業者のギルドに格上げする方法よ」

「フハハハハ。ここの商人は莫大なツケで商売しているんだぞー。1000年も戦争しているからさー」


 各国はボルカニ半島の利権を奪い合っている。

 マジャとハイネス・ガウ領の境界域に、小さい油田があった。あの自動四輪フロ車もだけど、自動機械を動かす油になる。

 そして、クロスト教は十字軍で、ガダ教徒の軍勢と、宗教支配地の境界線を動かし合っている。

 テラリアは教皇府が軍を持たない約束をしていたので、レオニア軍が代わりにクロスト教の軍として出兵していた。

 今は法規が変わったので、テラリア兵がレオニアの派遣軍に指導を受けながら、戦線を維持している。

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