第24話 マジャ 廃れた炭鉱と借金<2>

 ふらーっと、赤い子供のドラゴンが店内に入り込んだ。

 あーもー、アルトにはこの店の外で待っていてとお願いしていたのにー。

 私はアルトを抱きしめてやった。


 私の相棒は、誰か客人を連れてきてくれた。

 エルフのように長い耳、アーモンド形の黄色い目、前髪ぱっつん、長い黒髪を左右で結っている。私が見たことがない国民服を着ている。

 人間種ではないようだし、希少種の竜人かな。


 さっき話をした傭兵が、私に耳打ちした。


「ほら、彼女が東方賢者の弟子だ」

「へー、あの娘が。なんでアルトが連れてきたんだろ」

「チャンスの女神は前髪しかないんだぜ。ほら、話しかけろ」

「えーと、じゃあ、話してみます」


 アルトはきゅっきゅと、竜人の彼女へ話しかけた。私は先を越された。

 拱手礼こうしゅれいという、片手をこぶしで握り、もう片方の手で包む、挨拶をされた。

 かなりプライドが高いようで、ほとんど頭は下げられなかった。

 頭が高いとは、極東方面の言葉じゃないだろうか。


「お初にお目にかかる。私は竜国の公主、竜姫ロンキっつーもんだ」

「私はマリィ、その子のパートナーよ」

「気高き竜に対して、人間如きがパートナーだとぉ? 舐めていんのか!」

「誰が何と言おうと、アルトは私の相棒ですぅ」


 だって、私にとって、アルトは旅をともにしている大切な相棒なんだ。

 竜姫ロンキに私は反発した。

 彼女は、怒りを堪えるために、半開きの目になった。口の開き方から、言語を変えたらしい。


「くそみたいな鉱山から逃げてきた。くそみたいなフランシス人、高貴な私に無礼な奴らめ」

「残念ながら私は肥溜めじゃないわ。フランシスの女だからって、竜国語で馬鹿にしても私は分かるから。それより、東方賢者はどこにいるの?」

「げげっ。アルト様の弟子は、聞いたことがない言語でも魔法で自動翻訳できるんだな」

「そう、他人の言葉は全て分かるわ。残念ながらアルトの唸り声を私は翻訳できないけどね」


 全世界言語トラディクシヨン理解能力オートマティクが自動で発動していた。

 私は冷たい目で、竜姫ロンキを見てやる。なんかガサツな感じ、竜姫ロンキの第一印象はあまり良くなかった。


 バタバタと、店の内外が騒がしい。

 今度はフランシス兵2人が棍棒をもってやってきた。竜姫ロンキを連れ戻すつもりらしい。

 竜姫ロンキは謎のステップを踏み、棍棒の攻撃を回避して、手のひらで兵士の顎を撃った。掌底しょうてい打ち。

 ちょっと待ってよ、争いごとは止め止め。私が困惑していると、アルトが鳴いた。


「きゅっきゅー!」

「アルト師匠がそういうなら仕方ねえな。おい、姉ちゃん、何ならお前もラヴィ鉱山へ一緒に来い。そうしたら、お師匠オライントの話もしてやるよ」


 ちょっと上から目線なお姫様だ。

 竜姫ロンキは両腕を縛られて、店の外で待機していたフランシス兵たちに連行された。

 そのフランシス兵長に対してアゼルさんの口利きで、私とアルトもラヴィ鉱山に行けることになった。

 血の気の多い竜姫ロンキと私は、こうして出会った。

 彼女は、小竜のアルトを本気で師だと惚れこんでいたのだ。


「師を見つけたから、大人の竜になれんだ。東方賢者オライントと、そう約束して、甘んじて西の国へ左遷を受け入れたっつーわけ」

「じゃあ、大人になったら、国へ帰るのね」

「そういうことだな。私にとってはラッキー過ぎるな。ま、天命ってところか」


 私たちはナーキの駅で、ラヴィ行きの列車の到着を待った。

 その間に、少ないながら竜姫ロンキと会話ができた。

 おそらく竜人は、見た目以上に歳をとっている。エルフより幼い顔立ちなのだ。

 そんな容姿だと、この世界を牛耳るほどに増えた、人間様の世界ではなめられる。


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