第4章 廃れた炭鉱と借金

第23話 マジャ 廃れた炭鉱と借金<1>

 私の名前は、マリィ=フランソワーズ=レヴィ。

 フランシス王国の出身。一応、国家薬師。

 数えで16歳女性、種族は人間だ。

 金髪くせ毛、碧い眼が眠たげ、何故か未だに魔法使いの帽子と外套ローブが手放せない。


 フランシス南部からマジャへ、軍籍の船で運んでもらった。

 酒癖が悪い上級大将、魚人マーマンのトールとかいう奴に、私は嫌われていた。


 フランシス国王を暗殺しようとした軍の大将フィルを、私とレイが止めた。

 でも、王は毒杯を飲み、今も意識不明だ。その首謀者フィルは、島に流されて、自宅軟禁されている。


 島流しのフィルに憧れる奴は、酒におぼれる感じの悪い軍人だった。


「さっさと降りろ! 薄汚い魔女め!」


 酒臭い上級大将に、私は背中を押されて、躓きそうになりながら下船した。

 バサバサ、飛んできたアルトに服を引っ張られて、私は転倒を回避した。

 アルトは唸り声を上げて、トールを威嚇した。

 相棒の声を無視。トールはさっさと出航の合図を出して、マジャ・ナーキの港から船を出した。


―――


 ナーキ市街。

 東方賢者の家はすでに他人が住んでいた。すでに何処かへ旅立ったようだ。

 街には、軍人、傭兵、それに浮浪者があふれる。

 私は財布を盗まれて、アルトとご飯が食べられない問題に直面した。

 マジャ北部の戦争の弊害で、飲食物の値段が膨大に上がっていたのだ。


 ガラハさんが私を香草士と言うからだー。

 私はアルバイトで、香草士兼ウエイトレスを飲食店でやることになった。

 主に、近くに駐屯している軍人たちが集まる居酒屋である。

 東方賢者の話を、気前良さそうな軍人に聞こうとしたけど、男性の店主に「仕事を優先しろ」と怒られた。

 まぁそれでも、軍のおじさんたちは、からかい方も上手いので、若い女性である私と仲良くしてくれた。


 東方賢者の情報はなかった。

 マジャ北部の油田を巡り、ハイネス・ガウ兵とテラリア兵、オットー・ターク帝国兵が、毎日血を流しながら土地の占領を狙っているようだ。

 そこに、フランシス軍の兵隊が乱入して、ラヴィ鉱山一帯を一方的に占領していた。フランシス王国の正規兵ではなく、傭兵稼業の無頼の輩に頼んでいたようだ。

 程なくして、私は居酒屋で、竜騎兵のアゼルさんと再会した。


「マリィは薬師でなく、香草士になったのか?」

「アゼルさん、私は薬師です。財布をスラれたんですよ」

「はっはっはー。戦争中の国は治安が悪かろう。なかなかの生存訓練になっただろう」


 はっはっはー、で済まないって! 

 私の生活資金がゼロになったのを、酒のつまみにしないでほしい。

 アゼルさんは、豪快に笑うと、ジョッキのビールを飲み干した。ベロンベロンに酔っ払う前に、東方賢者の情報を聞き出そうとした。

 すると、アゼルさんの連れの傭兵が口を開いた。その彼は若く喧嘩早そうだった。


「東方賢者って、東の果てにある竜国に逃げた臆病者だぜ」

「もう少し詳しく教えてください。今、私は彼に教えを請いたいんです」


 わずかに面倒臭そうな目をして、若い傭兵は口を開いた。

 元の言葉が悪いので、自動翻訳もギャングのような感じになっている。

 でも、私は気にしない。東方賢者に近づければいいから。


「石炭クズの鉱山に、たしか東方賢者の弟子がいたはずだ。あのオンボロ鉄道を使えば、すぐさ」

「フランシスが援助している、ラヴィ鉱山ですか。そこに東方賢者の弟子がいるんですね?」

「ただし、気をつけな。あいつは冗談通じない奴だぜ。フランシスの軍曹を蹴り飛ばしやがった。東の国オウラの出身とか聞いているから間違いないと思うが」


 話が気に入らないと、軍人を蹴り飛ばす。どんな怖い人なんだろう。

 でも、私が『私』を受け入れるためには、東方賢者に会わなければならない。

 その彼の弟子なら、当人のいる場所くらいは教えてくれるだろう。

 会いに行こう。私は覚悟を決めた。

 店主に「仕事しろ!」とまた怒鳴られた。はいはい、お仕事ありがとうございます。

 もう、この仕事を辞めよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る