第22話【補足話】オーリン村の火災事件
―――サージェ視点―――
私がお見舞いで、オーリン村へ辿り着いたとき、義姉のジャンヌは息がなかった。
こんなときなのに、兄デオンは何処に行ったのだろうか。
私はドアを開けて、外にいるであろうデオンを探そうとした。
そのドアの前で、真っ青な顔をした少女がいた。
ジャンヌの娘、マリィだ。
煙の臭いがしてきた。誰かが火をつけたのだろう。
殺人に放火だ。
動揺していたので、私は潜伏先のレオニア語で、彼女に話しかけてしまった。
「あの、落ち着いて話そう」
「私は落ち着いているわ。おじさんは誰?」
「君を助けたい。だけど、君はこの村から逃げないといけない」
「お母さんは……。お父さんはどこ?」
「火事だ。逃げなさい」
私は話している途中で、マリィがレオニア語を使うことに気づいた。
不可解な出来事を前に、私自身の動揺は無理やり治めた。
オーリン村が、謎の勢力から目をつけられたのは、兄夫妻や娘のマリィの特殊能力があるからだろう。
異端審問官という中世の名残りみたいな連中が、フランシス議会を押さえて、王命で動いているらしいことは、魔法使いの末端である私も知っていた。
マリィは馬車を追って走り出した。
その背中を見送って、私は兄デオンを探すことにした。
家の中に戻った、せめてジャンヌは安らかに眠ってほしい。目を閉じて、仰向けにして両手を胸の前で組ませた。
私はジャンヌの武器を手に持って、外へ出た。煙どころか、火の手が広がり出していた。
向こうから歩いてくるデオンは、私を見るなり走って追ってきた。
私は波動を魔法杖で飛ばして、デオンの足を止めようとした。だが、魔法の出力が上手くいかない。
「だから、魔法は好きじゃない。クソがッ!」
「!!」
デオンの二振りの斬撃は、物理力に魔法の上乗せで強化されていた。
私は抑えるだけでぶっ飛ばされた。
私の前に立つデオン。私は立ち上がるのも精一杯だった。
ああだ、こうだ、悩んでいる暇がない。
「我を邪魔するものを駆逐せよ、獄門のケルベロス! 行けいッ!」
私は召喚獣を杖で呼んだ。覚えていた魔族語が役に立った。
私はテイマーを超えて、怪物の契約者となっていた。
三頭首の地獄の番犬、ケルベロス。
番犬はデオンを手で引き裂き殺した。そして、霧となって消えた。
私は兄を殺した。私が殺されそうになったから。
「クソッ、殺す以外に方法がなかったのかよ!」
腰が抜けて、お尻から崩れ落ちるように座り込んだ。
私の息、燃える音、それだけがこの場にあった。
さっさと逃げるべきだった。異端審問官たちが騒ぐ声がした。
私は今更怖くなって、立つことが出来なかった。
目の前に転がる二振りの
私は吐きそうになった。私はそんなに気が強いわけでない。
弟のクロウドの声がした。弟は異端審問官のような黒い服を着ていた。
「サージェ、お前がやったのか」
「そうだ。殺されそうになっただから、デオンを逆に殺した。何が悪い!」
「よくやってくれた。召喚獣を呼んだのか」
「そうだ。私を法廷に着き出すがいいさ!」
私は泣きたいのに、怒っていた。感情が散乱していた。
一方で、クロウドは無表情だった。目の前の引き裂かれた遺体が、兄デオンと知っているのに、だ。
「いいや、兄さんには司法取引してもらおう。逮捕はしない。ここであったことはなるべく口外しないでほしい。それともっとアントリアの魔物たちと再契約して支配者になってほしい」
「これからもっとたくさんの魔物を使役するようになると、私が強い者に見えるようになるぞ!」
「あの子を逃がしてくれただけで、私の転生はここでする必要がなくなった。兄さん、もっと自信を持って、強くなってくれ」
「レオニアへ戻る。もうフランシスへは二度と来ない!」
「そう。じゃあ、サージェのフランシス国における指名手配は残すよ」
クロウドは眠そうだった。こんな状況なのに、ずいぶん冷静だ。
ジャンヌが亡くなっているのを、他の異端審問官がクロウドに報告していた。
審問官は、クロウドに聞いた。
「この男は誰です?」
「一流の魔法使いさ。暴走していた
「じゃあね」とクロウドは審問官を連れて、ジャンヌの家に向かっていった。
私は震える脚を押さえて、この場から逃げ出した。
それからレオニアを中心に、主を失った魔物たちと再契約する生活になった。
再契約の条件は、私が死んだら、契約した魔物たちは消滅するとした。
もしものことを考えて、フランシス語やレオニア語の口調を変えた。
レオニアに入ると、クロスト・ガダの戦争が小規模で続いていること、南の国々はかなり借金があると知った。
「クロストの民は、今の借金をなしとする!」
魔物と契約し、レオニア・クロストの民のために、私は生きることにした。
それで罪滅ぼしになっているか、それは分からないし、私が考えることではないと思う。
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