第21話 レオニア王国同盟バルテナ・下 全世界言語理解能力 <5>

 明くる日。

 私たちは山間にある教会を訪ねた。

 実際には山中に居座る岩竜を祓うためにやって来た。


 寝る前にアスピリンを飲んだので、昨日の頭痛は、私の身体から消えた。

 そして、思うことを私はサージェさんに伝える。

 サージェはまたオネエ口調に戻っている。


「私、サージェさんの罪を許します。そして、私は祓い士になりません」

「あら~。嬉しさ半分、寂しさ半分よ~」


 ガラハドさんによる、岩竜を昇華させる祓いを見た。紙札にした文字呪文で、地縛してしまった岩竜の魂を昇華させたのだ。

 東方賢者の魔導書より、ガラハドさんが写し書きした『祓いの章』を私は読んだ。 

 だが、読めるだけで、上手く魔力を魔法にする出力できなかった。


「祓いの章が読めるのと、実際に聖獣を祓うのは違います」

「確かに、私も感情的にお仕事へ誘いすぎたわ。ごめんなさいね。でも、マリィに薬師、もとい香草士だと人生もったいない」

「薬師の仕事はアントリアにないかもしれません。翻訳の能力の使い方に悩んでいます。自分のカルマを律する方法はあるのでしょうか」

「東方賢者ならマリィの魂を1つにする方法がわかるかもしれない」


 そういうと、水筒を開けてから香草酒エルブをガラハドさんはグビっと飲んだ。

 聖職者から遠い行動や言動をしている。

 真面目に、私はガラハドさんに尋ねた。


「聖職者が昼間からお酒を飲んでいいのですか?」

「だーかーらー。私は文字呪文を使えるエルフ、聖職者の仕事は次いでよ」

「仕事中ですよね」

「まぁね。私は良い子ぶるの嫌いだし、素でいられることは大事よ。じゃあ、マリィも魔法使いや薬師にこだわる必要あるのかしら」

「そうですね。肩書きはあまり重要でない気がします。香草士扱いされても、パン焼きの仕事をしても、心が揺れることなく、私でいられると思います。でも……人格がバラバラになりそうなのは、私にとって耐え難いことです。私はどこの誰に助けてもらえばいいんですか」


 私の問題は、高い魔力と低い魔法の出力で、主に頭痛を引き起こしている。全世界言語トラディクション理解能力オートマティク、この自動翻訳の能力を律したい。

 女装のサージェと吟遊詩人のガラハドさんに助言をもらう。


「「東へ行くべきだわ」」


 東?

 肩にアルトを乗せた私は、首を横に傾げた。

 目の前の2人とも同じ考えだった。ガラハドさんは


「何で東なんですか?」

「何度も言うけど、東方賢者オライントなら、魔力から魔法の律し方を知っているかもしれないからね」

「さきほど名前が出た方ですね。たしか、大魔法使いマリンの弟子の1人。今、彼はどこにいるんですか?」

「今、東方賢者がどこで何をやっているか、わからない。けれど、東のマジャに行けば、そう古くない、彼の痕跡が見つかるかもしれない」


「専門の話は専門家に任せるべきだわ~」とサージェも背中を押してくれた。

 私はまずマジャへ向かうことにした。つい最近まで、東方賢者が隠居していた場所だ。

 サージェは目的地について、大事な情報を話す。


「マジャは今、オットー、ハイネス、テラリアと戦争中だわ~。道中、お気をつけてね~」


 マジャにあるのは、炭鉱や油田など資源、それに貿易港だ。

 それは国にとって、喉から手が出るほど欲しいものだ。商人の国オットー・ターク帝国の狙いが分かった。

 地縛霊祓いを行う2人と別れ、バルテナ港で船に乗り、いったん南フランシスへ戻った。

 エレンさんに手紙を書き、特別に船を出してもらえることになった。

 かの地は戦時中なので、フランシス海軍の船に乗らせてもらった。

 

 私はマリィ=フランソワーズ=レヴィ!

 相棒のアルトと一緒に、元気いっぱい、東へ向かう旅に出よう!

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