第15話 レオニア王国同盟バルテナ・上 薬師と聖女と魔王 <4>

 午後の陽射しが傾いてきた。少しだけ風が冷たく感じた。

 地中海の温暖な気候とは言え、まだ春なので、夜に向かうにつれて気温は下がるだろう。


 このバルテナの街は、聖家族教会の方まで行ってしまうと、港の方まで歩いて戻らないと飲食店バルが少ないそうだ。


「きゅーッ!」


 怒ったアルトが、私のお尻にかじりついた。

 うぇーん、相棒、許してぇ。

 私はヒリヒリとするお尻を手でさすって、道の先を歩く2人を追う。


 この世界は、ようやく平和時代に戻ってきた。

 自国の技術革新を見せ合う『万国ユニバーサル博覧会エクスポジション』や、運動競技で各国の代表者たちが争う『国際競技大会オリンピック』が、再度行われるようになった。

 万博エクスポの開催は、15年の周期で1国の1地域で行われる。

 一方で、オリンピックの開催は、4年の周期で1か国もしくは数ヶ国すうかこくの合同で開催される。

 国家間の戦争で恨みの連鎖を続けるより、国際的な平和の祭典を周期的にした方が、人類の成長にとって私は良いと思う。


「バルテナ万博エクスポが迫っているのよぉ~。前回、大地震からの復興万博エクスポって、フロンティア連邦サンフランコであったけどぉ……。あの国の高次科学はぶっ飛んでいるわぁ……。次の開催国がうちって、もぉ、嫌にやんなっちゃう~」

「フロンティア帰りのフランシス人には、最新の生活をする上で、私もお世話になっているわ」

「えーとぉ、それからぁ~。古い話ねぇ、レオニアの割譲地だったサンフランコを、フロンタル人が最先端の技術を駆使して、規格外な巨大都市に進化させたのよぉ。変態の極みよ、もぉ~!」

「……」

「だからぁ、勝てる方法でバルテナ万博エクスポをこの魔王様がぁ、やろうと思っているんですぅ!」

「……」


 魔王サージェ曰く、バルテナの都市は急ピッチで区画再編されたらしい。

 歴史的建造物を際立たせるために、前王家が都市計画したものを引き継ぎ、偽王や魔王とレオニア国民に罵られながらも彼が進めていた。

 万博エクスポは、開催する国家の威信がかかっている。

 建築家アルキテクトや科学者、数学者、商人、貴族、政治家など、いったいどれ程の職業専門家たちが血眼になって仕事をしているだろう。


 大人になりかけの私にはまだ、大きいことがよく分からない。

 けれども、実際、目の前に広がる街の景色で分かることがある。

 緑の街路樹と小さな公園や文化的な建築物モニュメントの多さは、学術的な計算されており、街全体が馴染んで見える。

 白っぽい石壁と温かい色の煉瓦屋根という家々だ。

 やや斜めを向いた全体配置の街は、光と風の流れを読んでいるようだ。


 あ、そうそう。ついでに、格子グリッド状の街の造りが不思議だ。

 道の交差点に中庭的なスペースがある。1つの区画ブロック隅っこが丸く、4つ角がないのか。

 余分な空間、その意味を推測する。

 住む人や物の過密を防ぐことができるだろう。

 また、下水道などの生活基盤インフラの場所をやや広く確保できるだろう。

 さらに、他人との会話する場所が自然と出来るだろう。

 この3つ以上に、街が住みやすいと思うような仕掛けがあるのだろう。


 はじめて視る街に、私はどこか懐かしさを感じた。

 私は現代的モダンな街というより、懐古的レトロな街の雰囲気に安心してきたのかもしれない。


 魔王が一生懸命に話すけれども、徐々に私は上の空になっていた。

 そこで、ガラハさんが穏やかに、私へ話しかけた。


「フロンティアの都市のように、新天地の生活困難を解消するため、人が必死に考え出した新しい技術を使った街並みも素敵だと思う。最新の生活基盤インフラを重視した街なら、夢にあふれる大勢の人たちが住むことができるから」

「なるほど、人類の英知が結集ね」


 私もフロンティア連邦の街を一度見てみたい。

 フランシス王国の都市がフロンタル化していくなら、本場を見ておくのは大事なことだろう。

 それはそれとして。

 聖女殿下ガラハさんは、柔らかな眼差しだ。

 ガラハさんの聖職者という立場からは、私とは別の見方があった。


「反対に、バルテナここはね。クロストの民が代々受け継いできた建築技法をより進化させて、今、バルテナこの地に住む人たちが穏やかな心で日々暮らすことを考えて、街を造っているの」

懐かしさノスタルジーを感じます。ここに立っているだけで、心の浄化カタルシスも感じます」

「うふふ。クロスト教徒の国って、不遇を乗り越えて強く生きる歴史の力を感じるものよ。さぁ、サージェ、あなたは喜捨して私たちに食事を提供しなさい!」

「魔王と聖女の関係性が、まだ私には分からないわ」


 結局、大人らしい考えにまとまらず、私は困った顔をした。

 魔王サージェは変な顔をして、お道化て笑った。

 歴史、技術、文化、宗教と民族性など、そんな概念だけじゃ、聖女も魔王も、私ごときに理解することは出来ない。

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