第3章・上 薬師と聖女と魔王
第12話 レオニア王国同盟バルテナ・上 薬師と聖女と魔王<1>
私の名前は、マリィ=フランソワーズ=レヴィ。
フランシス王国の出身。一応、国家薬師。
数えで16歳女性、種族は人間だ。
金髪くせ毛、碧い眼が眠たげ、何故か未だに魔法使いの帽子と
私は今、失業寸前で人生の危機。
偉い人の伝手を使って、隣国レオニアへ仕事をもらいにいく旅の道中なの。
私たちは旅の中継地として、フランシス王国の中央都市オーブを目指す。
王都パレスとオーブをつなぐ街道、その舗装はあと数年かかるらしい。
この荒れた土の道を右側に進むと、懐かしい四大自由都市への道に向かう。
だけど今回は直進で、ただ道を南下する。
最後の乗り納めかなーと、陸ドラゴン便に乗った私たちは、久々の乗り物酔いを体験した。
そういえば、竜騎士のアゼルさんが言うには、陸ドラゴンは軍を退役した戦闘聖獣らしい。
ずいぶんと高齢な陸ドラゴンだから、速く走ったり、遅く走ったり、か。
うーん、お疲れ様。
顔色の悪いまま、私は干し肉を運賃替わりに、陸ドラゴンへ与える。
乗り物になってくれた聖獣さんと、私たちはお別れした。
さて、中継地は目前だ。
あれ……? 私の右肩に乗るアルトの視線が固まっている。
貧乏な自国の中央都市、たかが知れて……。
え……? 私は言葉を失った。
ハイネス国で蒸気機関車を見たとき、私は興奮しながら「他人の国の
中央都市オーブは、大商業都市になっていたのだ!
この都市、王都パレスの何十倍の人たちがいるんでしょう!
これは……ハイネス国並み、いや、それを越える最新文明都市だ。
街の中に入ると、どの店々も活気があって、物の値段の高さに私は目を回した。
りんご、高ッ!
もちろん、立派な都市オーブには鉄道駅があって、フランシス産の蒸気機関車があった。
いやー、その、無知ってこわい。
フランシス南部、海水浴も出来る
お金持ちの商人たちの別荘地って、私のイメージが変わった。
近年、裕福になった人たちのお金の使い方は、かなり現実的だった。
百年戦争中から異国との貿易に勤しんでいた彼らが、虎視眈々と作った貿易港があった。
それが南部の大規模な港湾を含む、工業都市マルサだ。
結果、戦禍が少なかったフランシス南部から中央部は、鉄道が走るくらいに発展していたのだ。
「アルト~、私、フランシス人でよかった~! あら、鉄道運賃高いわね……、ご飯はレオニアで食べましょう……」
「きゅ……」
私は自国の技術革新を喜んで、それから運賃表を見て落ち込んだ。
アルトはご飯の時間が遅れると知って、もっと落ち込んだ。
ただ、南フランシス鉄道を使い、中央都市オーブから工業貿易都市マルサまで、馬よりも早く駆ける。
わっはっはー、文明の利器って高速ーッ!
フランシス南部のマルサ港から、レオニア王国同盟の港湾都市バルテナには、
少しの間、温かな南風を船の上で楽しんでいた。
それから、クロスト教徒の教会などが高くそびえ立ち、かつ整然と配列された美しい街並みが見えた。
この海に面した街並みを造った建築家さんたちの腕はすごい。
レオニア王国同盟の北東部にあるバルテナという都市は、カルサ帝国、テラ帝国、 魔族やガダ教徒、そしてクロスト教徒と支配者が次々変わった。
いわゆる、たくさんの異民族による混合文化が根付く場所なのだ。
あれ、異文化たちが混ざった街ってことは、レオニアで有名な闘牛やフラメンコって、ここで見られるんだっけ。
格別の味とうわさの美味しいハムは食べられますか。
「ハムハム~ッ!」
「きゅっきゅ~ッ!」
気分が良くなった私とアルトは、さっさと船を降りた。
都市計画がしっかりした街の通りは歩きやすい。
ついでに、食前の散歩だー! とっとことっとこー!
聖女ガラハさんとの約束を忘れて、尖っていながら曲線が美しい巨大な宗教建築の聖家族教会を観光気分で見ていた。
この教会に近づくにつれ、細部の装飾まで緻密な計算で造られていると目でわかる。
職人のこだわりが半端ないわ。
「近くで見ると、もっとすごい迫力ね……」
「
「え……」
「あらぁ~、
気配なく私の隣に立っていた人が話しかけてきた。
何となくフランシス王国の貴婦人みたいな口調、でも、ほとんどレオニア語みたいだ。
ウェーブかかった金髪は長く綺麗で、碧い瞳がもっと輝くくらいに整った顔、お化粧は
ハイウエストドレスが似合う長身だけど、ちょっとだけ全身の丸みに欠けている。
見た目は、私よりも魔女らしいド派手な赤い
いや、今のフランシスであれば服飾家さんは、男女問わずの服装をしている場合だってあるかもしれない。
ただ、現代で
良い反面教師に出会った。
私も魔法使いの恰好をしている場合ではないね。
えーと、この急に現れた変人さんは何者なんだろう。
例のスケベ画家さんに初めて会ったときを私は思い出した。相手のペースで話を持っていかれると、私は強張った表情をするしかない。
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