第6話【補足話】国家薬師試験に落ち続けたマリィへ

 結局、フランシス国内の隠れ家に戻っていた。


「それはそうなるだろ」


 フランシス王太子のレイは、辛辣な言葉を私に投げかけた。

 というのも、私はこの度の『国家薬師』試験に落ちた。

 実技は良かった。筆記試験が少し振るわなかった。

 メルケさんの家でのんびりし過ぎた。

 ただ1人で勉強の方が捗るのは間違いない。

 土を触り過ぎたか。


 レイはジドッとした目で私を見る。


「マリィ、パンがもう焼け過ぎているんじゃないか」

「あーもー、油断したー!」


 パンが焦げた。

 調子が狂う。それを見て、レイは顔を隠さず、苦笑した。

 美形な顔が美しく感じる。

 焦げたパンをレイは気にせず食べた。


「マリィはあと1回落ちた方がいいよ」

「すごく腹立つー!」

「って、手紙でクロウドが言っていた」

「お師匠の予言……本当あるあるね。怒りが引いて行く……」


 パンの焦げた部分を私の相棒アルトにあげている。

 きゅー!! 苦かったようだ。

 そんなレイに怒って、軽めの尻尾ビンタをレイに与える。

 レイは今度、ちゃんと焼けたパンを相棒にあげていた。

 相棒を手なずけるのは、私の次に上手い。


「マリィは本性を隠すときあるからなぁ。こうやって、アルトに聞いてみるのも1つの手かもしれない」

「うーん? 私は隠しているつもりないよ」

「クロウドって言うだけで、追い詰められている表情が消えるんだよなぁ。何かの魔法にかかっているんじゃないかとさえ思うよ」


 レイは何かを訴えたいらしい。でも、鈍感な私には分からなかった。

 おそらく、この場にいないお師匠クロウドに、私が奪われるのが嫌だったのだろう。

 ずっと思っていたけど、レイは私のことを結構気にかけてくれている。

 少なくとも他に思い浮かぶ男性陣より優しい。

 アゼルさんやブラウンは仕事が忙しいのか、最近会っていない。


 いや、レイの立場がこの地に彼を縛り付けているのか。

 私は的を射てしまったらしい。レイの返事も曖昧で弱々しい。


「レイは王太子からフランシス王になるんだよね」

「いや、それは確定事項じゃないんだよ。母親が今、フランシス議会の議長だ。それで父王は昏睡状態。もしかしたら、この国の体制は変わるかもしれない」

「それって、レイの願望なんじゃない?」

「そう、可能性に溺れそうだ。何もしなければ、王位継承できるだろう。それは俺が多くのことを諦めた結果だ」

「諦めないの?」

「今の俺は動物とだけ語り合っているんじゃないんだ。目障りな連中がゴマすりに来る。いやでも、王位継承を実感させられる」

「半々って感じなのね」

「そう」


 動物調教師テイマーになりたい王太子のレイ。

 父王ランスは毒杯を飲んで意識不明だ。母親のエレンが実質上の議会政治で動かしている。

 私は薬師になるために、試験を受けている。ただ周りの人たちは、私に魔法使いになってほしいような気がする。

 私は自分の話に変えた。

 レイは同じような境遇で二者択一、将来を悩める仲間のような感覚を持っていた。

 この際だから、私も言ってしまう。


「私は薬師の道を選んだけど、さすがに3回落ちたら、別の道を探すわ」

「魔法使いか、それともパン屋か」

「香草士もあるわ」

「マリィは手紙に惑わされているんじゃないか。気に入らなかったら、そんなもの破り捨てて別の道へ走り出してもいいんだぞ」

「手紙はあくまでもきっかけ。私はフットワークだけ軽いから、間違いや失敗はたくさんするわ。でも、それも込みでマリィだと思うの」

「そうだな。何となく俺、マリィとは分かり合える気がする」


 レイは自然に微笑んだ。

 そして、椅子から立ち上がると、「また美味いパンが焼けるとき来るよ」と言って去って行った。

 何だろう。不思議とドキドキした。


 そして、お師匠の予言通り、次の国家薬師試験も落ちた。

 また実技は合格点だけど、筆記試験が少しだけ点数足りなかった。

 点数改ざんされているんじゃないか、と1日泣いて過ごした。

 

 すごく凹んだ。

 そうしたら、お腹が空いてきて、パンを焼こうと思った。

 焦げないように気をつけながらパンを焼いた。

 これなら、レイに出しても問題ない。焼けたパンは、アルトにほとんど食われた。

 何かスッキリした。

 次の年の試験を最後の挑戦にしようと、割り切って勉強を始めた。

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2024年11月30日 18:00
2024年12月1日 18:00
2024年12月2日 18:00

薬師マリィさんの東方旅記-オウラジュナル- 鬼容章 @achiral08

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