第3話 フランシス・フルーラ 花と薬師<3>

 雪が少し積もっていた。

 王都パレスはフランシス国でも北の地方だ。別に驚くことではない。

 私、マリィの移動手段はいつも通り。


 あまり冬の寒さに強くない陸ドラゴン便だ。

 くん製肉をあげて何とか走ってくれる。陸ドラゴンが王都を離れ、南の街道に入ると元気になってきた。

 余ったくん製肉は、全部、小竜アルトの餌と行きたいが、この子は食べ過ぎるのでダメ。

 アルトに半分、食べ物を与えた。相棒は、うれしそうに吠えた。

 試しに残り半分のくん製肉を私もガリガリとかじり食べた。意外と美味しかった。


 陸ドラゴンは居眠り走行だ。緩急のスピードに癖があり、懐かしい乗り物酔いを感じた。

 ボンヌという小さい街へたどり着く。

 戦時中、人の手で削って作った運河、メル運河がある。通称、はちみつ運河ハイドロメルだ。ここを船で行く。

 トロサという南部でも大きい商人の街へ出た。そこからフルーラは歩いてすぐと言う。

 乗り物での移動手段もない。つまり、秘境へ至る細い道だ。


 私は土を触った。少し弱った薄い赤茶色。

 戦争の爪痕が残っている。人の回復より、大地の回復はより長い年月を要する。

 さすがにアルビオンのときと違って口に含まず、手から地面へ土を返した。

 アルトに上空から見てもらい、道を間違わずに、フルーラの街へ歩いて行った。


 パレスを含む北方から中部の街は、戦費と街を維持する人手の両方が不足していて、貧しい街になっていた。

 南部の都市トロサが、近隣国とガロン川でつながっているので、フランシス王家の監視が強い街であった。

 王家に忠誠を尽くす代償として、メル運河を作り、川の利権をフランシスにも渡した。

 ややこしい話だが、小さい街フルーラから運河の労働者が駆り立てられた。

 戦争に行くのと、運河の労働者になるのと、どちらがマシかということだ。


 フルーラは男性の働き手を失い、間接的に戦争貧乏になったのだ。不思議なことに、この地の土の色は少し黒い。

 この十数年で街が変わってきているようだ。

 ただ冬はさすがに花の観光シーズンではなく、人の気配があまり感じない田舎風景だ。


 アルトがカラフルな色の鳥カルボを連れて帰ってきた。

 カルボはフランシス王太子レイの飼い鳥だ。私が急に旅に出たのを母親のエレンさんから聞いたのだろう。

 手紙でレイは旅の意味をこう語った。


『メルケの仕事は、冬の方がよく分かる。マリィなら、なぜ花の時期でない今、フルーラに行くか分かるだろう』


 要約。土好きだろう、とのことだ。

 私に手紙だけ渡すと、ご褒美の餌を待つまでもなく、カルボは飛び去って行った。

 後でレイに手紙を書こうっと。


 1年間の農作業の中に、土の調整があった。次の春の下準備をしている。

 冬なのに、地面が荒れてないのだ。人の手が入った冬の大地は、パレスとは違う。 

 私は土を掴み上げた。アルビオンの農場で感じたものに近い。

 くんくんと匂いを嗅ぐ。アルトが土を食べようとする。すると、間延びした男性の声がした。


「食べてはいかんぞー。うん、ドラゴンの子なら尚更じゃー」

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