第7話  最後の弟子とか 視点17

 午前中、あーしとは市場を見て周り冒険者に必要な雑貨とディッツさんに言われた防具を購入した。

今は市場の屋台広場で安い串焼きを囓っている。


 しなのは鉢金に革製の手甲、足甲、あーしは鉢金に換えて薄い革手袋と手甲、足甲にした。

しなのは鎖帷子、あーしは投げ短剣が欲しかったが予算的に断念。

金貨から両替した銀貨30枚が、もう半分以上ない。


「17、冒険者で食べるのは厳しいな。装備と消耗品だけで銀貨が飛んでゆく。」

目の前で、しみじみ呟かれた。


 冒険者として最初に装備を整えるには資金が必要だ。

最初から金貨の出る依頼は珍しく、地道に資金を貯めるか、借金をして準備するのが普通と聞いた。


 そして冒険が上手くいかなくて、借金を抱え、カジノに逆転を狙いに来ていた冒険者を鴨にしていたのが、あーしの前職だった。

極稀な例外を除けば、それらの冒険者は借金奴隷に転落してだ。


「それでも、あーしらはツイてる。」

そう相槌を打つとしなのは黙って頷いた。


と、席を立つ。


「食事中すまぬが、スガ村の殿とお見受けする。」


 いつの間にか、しなのと同じくリザードマン刀を二刀下げた男1人と傭兵らしい男3人、計4人が近くに立っている。


「いかにも。貴殿は?」


「名乗る程の者ではない。」


 そう言うと、男達は全員抜刀、抜剣をした。

しなのも二刀を抜く。


「果たし合いだ!」


 周りが、ざわつく。

どうでも良い時は見かける治安傭兵は辺りに見当たらない。

あーしは完全に巻き込まれた。

簡単な賭けが始まっているところを見ると、治安傭兵は買収済みかも知れない。


「あーしは思うんだけど、剣士なら一騎討ちすればどうかな?」

あーしが提案したが、双刀の男は笑った。


「[剣聖]最後の弟子に手加減は出来ぬよ。」

双刀の男が余裕を持って答えると、しなのはニコリともせず応じた。


「17、別に問題はないが、少し下がってほしい。」

そう言うと、殺気が、あーしにも分かるぐらい膨れ上がる。


4?」


 え?


 しなのが踏み込んだ次の瞬間、傭兵3人が血飛沫を上げて倒れる。

まるで黒い突風が吹き抜けた様だ。

あーしの目では、とても追えない。

しかも、竜力を使った形跡はないのに。


「双月流[烈風]、これ程とは!」


 流石に少し心得があるのか、双刀の男はしなのの斬撃を刀で受けながら間合いをとった。


 だが、その男もそこまでだった。

更に踏み込んだしなのの左手の斬撃は受けたが、右手の斬撃で胴を絶たれた。

「[十文字]見事」

そう呟くと男は倒れ込む。


「17、待たせた。」


 リザードマン刀に付いた血を払うとしなのは息も切らさず平然と話かかけてきた。

あーしは賭けの胴元から、ファイトマネーとして銀貨を数枚回収すると、治安傭兵が来る前に一緒に屋台広場を離れる。


 ここは魔都ハルピア。

現行犯で無ければ、いくらでもトボケられる。


☆☆☆


って訳ありだったんだっだ」


 適当に入った冒険者の店のテーブル席でエールを片手に、あーしが話かけるとしなのは気まずい困惑した顔で答えた。


「師から受け継いだ、この[上弦][下弦]の二刀を狙う者達がいてな。こんなに早く来るとは思ってなかった。」


 長い刀が[上弦]それより一寸3.3cm短い刀が[下弦]という銘らしい。

あーしは刀術やリザードマン刀に詳しくないから、良くわからない。


 ただ[剣聖]ぐらいは聞いた事がある。

たしか初代[剣聖]は引退して行方不明。二代目は病死。

三代目は何故か3人いて争ってるだったかな?

あーしの聞き違いで無ければしなのを[剣聖]とか男は言ってた。

そこを訊くと更に困惑した顔をする。


「双月流の免許皆伝を許されたから、弟子ではあるが、[剣聖]とは知らなかった」


 あーしはエールを煽った。

どこぞの店と違い薄めてなく美味い。

しなのにもエールをすすめる。


「エールのお替りと〜[烏賊の炙りマヨネーズ付き]〜はいかがですか〜」

この店の女主人がテーブルにオススメを伝えに来た。


 あーしは銀貨1枚を店主に払い、料理とを頼む。

すると、入ってきた治安傭兵が「満席です〜」と追い返されるのが見えた。

魔族の経営する冒険者の店に強引に入る治安傭兵はよほどの変わり者以外まずいない。


「[烏賊の炙りマヨネーズ付き]とエールです。」

竜人の店員が酒とツマミをテーブルに置いてゆく。


「ミーティングまで、まだ時間ある。生き延びた事に乾杯!」


 あーしは強引にジョッキをあわせた。

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