第6話 下級神官 視点ペプシ

「ペプシさんかぁ、姉妹にコカさんとかいないよね?隠れて何度か飲んだけど、美味しかったなぁ。」


 しばらく前、月に一度の無料診療日に[聖女]様から声をかけていただいた。

名をきかれ、ペプシと答えた時の[聖女]様の反応が上記の御言葉。

[聖女]様の知り合いに似た名前の方がいらしたのだろうか?

それに[聖女]様は、お酒は召し上がらないから、隠れて飲むの意味も分からない。


 もしかすると、なにかの宗教問答だったのだろうか?

今でもたまに考えてしまう。


☆☆☆


 その当時、私は神官見習いとして、修行と雑用に追われていた。


 啓示を受けていない見習いは髪型も制限され、身を粉にして働く事が求められる。

貴族の家柄の見習いでも、シンプルに髪を結わねばならないし、平民の見習いは[おかっぱ頭]にしなくてはならない。

もちろん、私は[おかっぱ頭]だったが、大きな神殿に住み込みで修行出来るのは恵まれた事だ。


 [働かざる者食うべからず]

 貧しい農村に産まれた者は嫌でも叩き込まれる教えで、それは私の身にも染みついていた。

屋根がある所で寝られ、毎日食事が取れる生活に何の不満があろうか?


 ただ食事については、忙しさに食べ損なう事も度々あり、特に無料診療日は外来信者が多く、目の回る忙しさになるので、口の悪い見習い仲間には「無料診療日は強制断食日」と影口を叩く者もいた。

それでも[聖女]様がお見えになる無料診療日から数日は寄付食材が集まり、食事が豪華だったりするので、見習いは皆、頑張るのだ。


 それに[聖女]様と話したり触れたりすると、大地母神より啓示を賜ると噂されていた。

見習い達は隙あらば近づこうとしていたし、実際無料診療日を聖女様の近くで過ごした者が、翌日啓示を受けた例は多い。


 だが私には無縁なはずだった。

なんだかんだで、[聖女]様の近くにはべるのは基本貴族のお嬢様達が優先される。

私は[聖女]様には近づく事さえ叶わぬはずが、[聖女]様が休憩中に近くに座り話かけてこられたのだ。



「ペプシさんは世界を旅したいって聞いたけど、[歩き巫女]志望?」


「は、はい、[聖女]様。け、啓示を受けて、まずは下級神官にならないといけませんが。」


 なんで[聖女]様が私の夢をご存知なのかと、思ったが病を見抜く眼力の[聖女]様なのだから、それぐらいは朝飯前なのだろう。

[聖女]様の凄い所は常人離れの神力よりも、相手に触れて中空に語りかけると、病が分かる事だと思っている。


「[歩き巫女]資格は神官からだよね?下級神官から神官になるのは貴族じゃないと時間かかるからなぁ」


「は、はい。なので、あ、ある程度訓練をしたら、冒険者になろうと思っています。」

啓示を受けた平民は下級神官に、貴族は神官に任じられる。


 下級神官から神官になるには実績を積むしかない。

冒険者になり神殿からの依頼をこなすか、地道に神殿で働くか。

地道に働くのは確実だが早くても3年、遅いと10年はかかる。


「せ、世界を旅したいのと、ゆ、行方不明の兄を探したいのです。兄は魔術師ギルドから借りた奨学金を返す為に冒険者になりました。」


「うーん、魔術師ギルドは、ただの借金を奨学金と言い換えてるだけだから、悪質だよね。金貨10枚しかも年利10%だっけ?」

そう。

そして魔術師ギルドは返済がある程度滞ると、正魔術師資格を停止し債務を売り払う。

大抵は軍に買われるから、戦場魔術師と呼ばれる者になる。


「慣れないうちは[森の若木亭]かな?[魅惑の伯爵夫人]は食事が美味しいけど、高いから。」


 その時は啓示を受けていない私に冒険者の店の心配は早いのでは?

と思いましたが、その晩に啓示を受けて翌日には下級神官に任じられました。

[聖女]様の噂が本当になったのです。


☆☆☆


 啓示を受けてから半年。

私は[森の若木亭]の扉をくぐった。

半年間、下級神官としての実務と戦闘訓練、旅の心得などを神殿で学んだ。

下級神官として治療で得た銀貨で護身用の武器も買った。


 幼い頃に慣れ親しんだ脱穀棒に似た両手用のフレイルと言う武器。

石突きもあり杖としても使える。

神官が戦うのは勧められないが、ゴブリン程度なら戦う事が出来そうだ。


「神殿からの紹介状は見たよ。治癒使える神官なら、引く手数多だけど女性が多い新人パーティを紹介するから、待ってな」


 サービスしてもらった、薄いエールを飲み待っていると体格の良い竜人の女性と見た目普通の短剣を持った女性を店主が紹介してくれた。


「あーしは17って呼ばれてる。」


「しなの、双月流刀術を修めている。」


 2人の挨拶に「か、下級神官のペプシです。」 私はそう挨拶をした。

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