第5話 竜人の剣士 視点しなの

 [森の若木亭]

 竜の島から魔都ハルピアまでの船で親切な船員が教えてくれた冒険者の店。


 船員は乗客の女性全員に声をかけていた軽薄な男だったが、嘘つきではなかった様で、冒険者志望だと伝えると店主は同じ様な仲間を紹介してくれると言う。


「嬢ちゃんは剣士だろ?流派はどこだい?」


と言う。流派は双月流」


 リザードマン刀を二振り下げていれば剣士だと分かるだろうが、流派を聞いてくるのは流石冒険者の店の主人だ。


「しなのちゃんね。剣聖流か〜。正、隠、武、どこ?」


「いや、剣聖流ではなく双月流」


 私は店主の勘違いを訂正した。

双月流の創始者は[剣聖]を名乗っていて、その弟子達が、それぞれ[正剣聖流]、[隠剣聖流]、[武剣聖流]を起こしたから双月流=剣聖流と思われている。

しかし、か。

ちゃん付けで呼ばれるのは初めてだ。


「……わかった、双月流ね」

店主には剣士特有の面倒くさい拘りと解釈されたらしい。

薄いエールを出され、テーブルで待つ様に言われた。



 その老人は村の用心棒をしていた。

リザードマン刀を二振りも下げ、村の近くにゴブリンなどの妖魔が出れば斬るという生活。


 かつて、村がオーガに襲われた時、行き倒れかと思われていた老人があっさりとオーガを斬って捨てた。

それ以来、村の外れに住まわせているという。


 私が、そんな老人の弟子兼世話係になったのは村長が代替わりしたからだ。

先代村長が使用人に手を出し、産ませた子が私で、元々村長宅に居場所がなかったのだが、代替わりを機に本格的に追い出された。

ちなみに使用人だった母は隣村の子持ちの男に後妻として嫁がされたと聞く。


 そして、その老人。

私の師が病で死の床にある時事件は起こった。

突然尋ねてきた男達が師の二刀を寄越せというのだ。

聞けば師はかつて[剣聖]を名乗っていて、後継者を定めず姿を消した。

その為三人の高弟が、それぞれ[剣聖]を名乗り流派を起こしたという。


 その男達がいうには師の[上弦][下弦]の二刀を引き継ぐ者こそ、真の剣聖になるらしい。

そして男達の師こそが、それに相応しいと。


の高弟の中で、儂は後継者たる[剣聖]を選んだ。病で儂より先に去ったのは天命じゃろう。他の三人に[剣聖]たる資格はない」

師は震える声で男に告げた。


「もし、[上弦][下弦]を引き継ぐ者が[剣聖]だと言い張るなら、この娘、こそが[剣聖]じゃ」


 男達は激高した。

そして抜刀して私と師に斬りかかってきた。


 遅い。


 私の感想は怖いではなく、遅いだった。

男達を斬り伏せるのはゴブリンを斬るのと同じぐらい簡単にすんだ。

だが、動けなくなっていた師は斬られ事切れていた。


 本来なら村長に報告して、事態の収集をはかるべきだったのだろう。

だが、男達の言が本当だったなら次が来る。


 私は旅支度をすると、黙って村を出た。



「あーしは17って呼ばれてる。」


「か、下級神官のペプシです。」


 しばらくすると、店主から仲間に推薦するという者達を紹介された。

見たところ、盗賊崩れに修行中の下級神官。

組むには丁度良い塩梅だろう。

店主は店の隅のドワーフに声をかけに行っている。


「しなの、双月流刀術を修めている。」


 私はそう告げた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

用語解説

[リザードマン刀]

日本刀の事。

日本からの転生者がリザードマンに伝えた事からリザードマン刀と呼ばれる。

[竜人]

日本からの転生者と竜の無精卵から産まれたハイリザードマンの子孫。

竜人と人間の子は竜人として産まれる。

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