第8話 見極め 視点 ペプシ
毒消し、血止め、腹痛止めに傷用絹糸と針。
大地母神殿で4人分の薬と応急手当用品を買うと下級神官価格とはいえ銀貨8枚など溶ける様に消えた。
私の神力は神官平均の6なので、これらと組み合わせて上手く治療してゆかねばならない。
「神官こそが冒険者パーティの要。貴女が無傷で消耗していなければ、駆け出しの戦士数人でもオーガを倒すことが叶います。」
冒険者志望者向けの講義で神殿の教官はそう述べていたが、流石に誇張が過ぎるだろう。
ただ、それぐらい冒険に治癒役は重要だと言う事。
気を引き締めなくては。
買い物を終え、大地母神殿の正門を出るとドワーフのディッツさんが待っていた。
「ペプシ、儂に付き合え。ミーティング迄に寄って置きたい所がある。」
それだけ言うと、背を向けて歩き始めてしまった。
「ま、待って下さい。」
慌てて追いかけたが、冷静になればドワーフのディッツさんより私の方が歩くのは早い。
「冒険に出たら冷静にな。ペプシ」
ディッツさんに
☆☆☆
「え、えーと。ここは?」
私がディッツさんに連れられて来たのは[学問の神]の神殿にある図書館だった。
学問の神の神官ではない者は入場料がかかり、1人につき銅貨5枚。
けして安くはない。
「エルフが話していた行先は南ランドルト街道の中頃にあるロイターの街から西に行った山中にある。記録を探せ。」
「ぐ、具体的にはどんな記録を?」
意味が分からなかったので尋ねる。
「コツを掴むまでは、地理的な物だけでも構わない。歩き巫女でも、旅司祭でも良い。手記を探せ」
「それに、お前さんも、歩き巫女志望なら手記を書け。くだらない手記でも誰かの役に立つことがある。」
私は[学問の神]の神殿が行き倒れた冒険者などの手記を買い取りしている事を初めて知った。
何気ない記述から、現れる魔獣が分かったり、その地域では食べてはいけない物がわかったりするそうだ。
ディッツさんと手分けをして、資料をあさってゆく。
「ここの資料は[魔導転写]以外では書き写しが禁止されている。もちろん魔導転写には金がかかるから、気になった事は覚えろペプシ。」
そう言いつつもディッツさんは既に何枚か魔導転写を使用している。
魔導具による[魔導転写]は一回銀貨1枚。
紙も[学問の神]の神殿らしく、在庫が豊富にあり、普通に売っている。
だが安くはない。
パーティが軌道に乗ったら、パーティ資金制に移行しないと厳しい。
銀貨8枚に図書館入場料の銅貨10枚、それに魔導転写代や紙代、全て建て替えているけど、ちゃんと精算されるのだろうか。
「
二刻ばかりを過ごし、私達は図書館を後にした。
☆☆☆
「
私が屋台で買った安ワインを傍らに、肉の薄パンばさみに噛りついていると、ディッツさんが呟いた。
図書館を出て屋台広場で遅い昼食を取っている。
ディッツさんは何も食べずに安いワインだけをジョッキで飲んでいる。
酸味が強く癖になる味だが、何も食べずに飲む物ではない。
ドワーフは酒さえあれば食事はいらないという噂を信じたくなる。
「わ、ワインだけ飲むからだと……。」
「違う、噂話の事だ。」
そういえば、その安ワイン売りの店主が、二人組の女が因縁をつけられて、その片割れが傭兵達を斬ったと話していた。
そして、双刀を下げた若い男が斬った女の情報を訊き回っているらしい。
確かに治安傭兵の数が屋台広場に10名以上いるのは普通ではない。
「う、噂って、しな」
ディッツさんが睨んできて、私は黙った。
「いや、シナモンなど不向きだろう。」
ディッツさんは強引に話を誤魔化す。
冒険者に過去を尋ねないのは基本らしいが、しなのには因縁時のやり取りからして、追っ手がかかっているらしい。
ディッツさんは世間知らずな私に、冒険者の現実を教えてくれているのだろう。
事前準備の必要性や依頼人の見極め、金銭管理と、もしかしたら仲間の見極めも。
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