第4話 温かい自宅

雨上がりの晴れ間が差し込みはじめた空を眺めながら星を探していた。昼間に星なんて見えるわけがない、そう思いながらも、幼い頃読んだ少女漫画の影響で明るい空に星を探す癖がついていた。そんな17歳だった。


店内に戻って、「晴れましたね」と店長に向かって言ったが、店長は藤川さんと何かの話し合いをしていて、こっちの聞く耳持たずといったふうだった。


「坂野ちゃん、好きな音楽ある?」と七馬くんが問いかけた。わたしは鈴木あみが好きなんだと話した。「ここにコンポがあるから、坂野ちゃんの好きなCDとかカセット持ってきてかけてくれていいんだよ」と言ってくれた。へえ、そんなことしていいならガンガン鈴木あみかけたいわ!とワクワクした。

コンポとか懐かしいよね。今の時代はスマホ一台あれば色んなことができてしまう。めぐちゃん時代には今の時代にはない大切で見失いそうな今にも消えてしまいそうな、虹のような煌めきがあった。もうここにはないものだ。

早速翌日から鈴木あみのCDを持って行って、店のコンポでアルバムをリピしながら働いていた。それは得がたい空間で、自宅で温かいコーヒーを飲みながら本を読む感覚と似ていた。わたしには〈温かい自宅〉というものはなかったのだけど。


その後藤川さんはわたしに何も言わず店を出て行った。それが却って怖かった。七馬くんは「藤川さん、実はめぐちゃんの上のマンションに住んでるんだよね。だからこれからもしょっちゅう来ると思うよ」とこそっと教えてくれた。


絶対という言葉は多分ない。それは人間関係にも言えることなんだろう。みんながみんな自分にとって「いい人」とは限らない、「いやな人」をどう乗り越えるかといったところが当時のわたしにとっての最大の課題となっていたような気がする。


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