第3話 おつぼねさまの登場

七馬くんの言っていた危険人物は、わたしがめぐちゃんでバイトした2日目の日におでましした。どうやら若い新人が入ったということで気になったようだった。


店長はいつものようにパイプ椅子に座って煙草を口にくわえていた。左手に煙草、右手にはいつもの缶コーヒーだ。

わたしも煙草を吸いながら、「店長、今日雨ですね〜」と客足の少ないことを気にかけて言った。

「坂野さんさあ、晴れ女ぽいから店の前に立っててよ。晴れるかもしれないからさ」なーんて、そんな神頼み的なことをわたしに押しつける店長。更に七馬くんさえも、「坂野ちゃん確かに晴れ女ぽいな」と助長させることを言う。

別に嫌な気分はなくて、むしろ店の前に立つだけでお給料が貰えるんだからありがたいと思い、店の前にある傘立てに座って(立ってない)雨粒を伴う空をただじーと眺めた。なんて気楽なバイトなんだ。店長も七馬くんも感じがいいし、しゃべりやすいし、何となく空気感というものが似てて居心地がいい。他のバイトの人はまだ来てないみたいだけど、そのうち会うことになるんだよな。どんな人たちなんだろう?


そう、ぼんやりと考えていた矢先に、「坂野さん?」と、目の細い太った、ちょっとこう言ってはなんだが不潔そうな髪型をした茶髪の女性が歩いて話しかけてきた。その人こそが七馬くんの言っていた〈危険人物〉であり、めぐちゃん内の〈御局様〉だった。


人は見た目で判断してはいけない。しかし時として見た目で判断しなくてはいけない時もある。その御局様はいかにも高圧的で愛想の「あ」の字もない、笑顔の「え」の字もない、まるで真っ白なキャンバスに「表情のない女」というタイトルの絵があればそれに相応しい顔つきをした女性だった。


「藤川っていうの、よろしく」と御局様はわたしに向かって冷たい声で挨拶をしてから店の中へ入っていった。

店長と何か話をするのだろうとわたしは思った。


やがて空から降る雨粒が小さくなりはじめ、代わりに太陽の光が雲間から見えた。雨が上がったようだった。わたしは本当に晴れ女なのだろうか、それとも藤川さんが晴れ女なのだろうか、と複雑な気持ちになっていた。

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