第2話 七馬くん

「坂野さん、こちら七馬くん」

最初に店長に紹介されたのは少し年上の背の高い眼鏡をかけた真面目そうな男の人だった。

当時わたしは17歳。七馬くんは20歳くらいだったんじゃないかと記憶している。確か、大学生だったかな?

オレンジ色のエプロンから見えるチェックのシャツ、茶色に染めた髪型は乱暴にトリミングを受けた子犬のようで、決してお洒落とは言い難かった。けれども不思議と清潔感を漂わせていて温和な印象を受けた。その印象は最後までずっと変わらなかった。


「えーと、七馬くん、こちら坂野さんで今日からだから色々教えてあげて」と店長は七馬くんに言ってから煙草に火をつけた。客の行き交う店のレジ前で堂々と煙草を吸うこと自体今の時代では考えられないことだけど、当時は当たり前だった。

店長は大の付く喫煙者でひっきりなしに煙草を吸っていた。缶コーヒーを片手に煙草を吸う店長のガタガタの大きな黄色い歯を今でも覚えている。口臭も相当なものだった。


七馬くんは「坂野さんよろしくね」と七馬くんはニコッと笑った。アニメに出てきそうなモテ系男子というよりは、オタク系の男子のその笑顔だった。

「よろしくお願いします」とわたしもニコニコした。愛想はいいように心がけていた。


どうやら店長も七馬くんも、まるで裏がないというか、わたしに好意的に接してくれているようだった。そこでわたしはめぐちゃんでやっていけそうだと安心感を覚えた。


と、そんなことをビデオテープの巻き戻しのやり方を教わりながら内心考えていたら、七馬くんが、「一人、ちょっと厄介な人がいるんだけど、注意してね」と苦笑いをした。

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