第4話 ようやくソーセージを

「これで最後であってほしい…」


何度目のインターフォンだろう。すでに頭はぐったりしていて、疲労感が全身に広がっていた。ドアの方に向かうとき、私は心から願っていた。もう誰もおかしな客が来ないように、と。


意を決してドアを開けると、そこには誰もいない。


「え?」


不思議に思い、周りを見回したが、やはり誰もいない。ホッとしつつも、警戒してドアを閉めようとしたその瞬間。


「ピヨピヨッ!」


鶏の被り物をした謎の人物が、ドアの横に隠れていたのだ。


「うわっ!」


思わず驚いて後ずさりしてしまう。再び現れたこの奇妙な訪問者は、勢いよくドアの前に飛び出してきた。手にはあの手書きの「ソーセージ注文書」を掲げ、目を輝かせている。


「コケコッコー!ピヨピヨッ!」


「いや、だから…ソーセージはまだ完成してないんですよ!」


もうこれ以上の対応に限界を感じ、なんとか追い返そうとするが、鶏の被り物の人物はその場でじっと動かない。再び奇妙な鳴き声をあげつつ、注文書を押し付けてくる。


「ああ、もう…」


そう思ったその時、キッチンの方からかすかな音が聞こえた。そう、ソーセージがついに完成した音だ!


「ついに…!」


鶏の人物に構っている余裕はない。私は急いでキッチンに駆け戻り、鍋の中を覗いた。そこで待っていたのは、完璧に出来上がった手作りソーセージだ。


「やっと…できた…!」


ホッとした瞬間、冷蔵庫の前でビールを抱えていた酔っ払いのおじさんがふらふらと近づいてきた。


「おお!やっとソーセージができたか!待ってたぞ!」


「いや、あんた勝手に家で寝てただけでしょ!」


そして、ドアの方を見ると、時計を齧るお婆さんが戻ってきていた。しかも、また時計を手に持ち、今度はさらに大きな掛け時計を齧っている。


「おや、ソーセージが出来たって聞いたんで戻ってきたよ!」


さらには、スマホを知らないお兄さんまで現れ、キッチンに入ってくる。


「すみません、ソーセージもうできましたか?それと、スマホってやっぱりよくわからなくて…」


一方で、鶏の被り物をした人物も、勝手にキッチンへと入ってきて、注文書を握りしめながら「コケコッコー!」と鳴き声を上げている。


「ちょっと待って、みんな!」


キッチンはもう大混乱だ。ソーセージを食べるどころか、誰が何をしているのかさえわからなくなってきた。おじさんはビールを開け、時計を齧るお婆さんはソーセージを見つめ、スマホを知らないお兄さんはスマホの説明を求め、鶏の被り物の人物は鳴き声を上げ続けている。


「もうどうにでもなれ!」


私はソーセージをひとつ皿に盛り、テーブルに置くと、みんなが一斉にそのソーセージに注目した。


「さあ、食べてください…もう、どうぞご自由に!」


そして、それぞれが手を伸ばし、ソーセージを取り合い始めた。酔っ払いのおじさんはビール片手に「これだよ、これ!」と叫び、お婆さんは時計を放り出して満足げにかぶりつく。お兄さんは不安げにスマホのことを気にしつつもソーセージにかじりつき、鶏の被り物の人物は鳴き声と共にゆっくりとソーセージを手に取った。


「…なんなんだ、この状況は」


私はその光景を見ながら、なんとか無事にソーセージが完成したことに安堵し、疲れ果てた体を椅子に沈めた。


「結局、静かな午後どころじゃなかったな…」


そう思いつつも、目の前でソーセージを楽しんでいる奇妙な客たちを見て、少しだけ笑みがこぼれた。


「まぁ、これも一興ってことか…」


そう自分に言い聞かせながら、最後に残ったソーセージを一口頬張る。出来栄えは最高だった。


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ソーセージを待つ間に 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92

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