第3話 鶏の被り物の謎の人物
またもインターフォンが鳴り響き、私は深い息を吐きながらドアへ向かう。今度こそ普通の客であることを祈りつつ、ドアを開けると、そこに立っていたのは鶏の被り物をした謎の人物だった。
「え?」
頭の中で状況を整理しようとするが、どう見ても鶏の姿をした人間が、私の家の前に立っている。そして、その人物は何も言わずに私をじっと見つめている。
「えっと…どちら様ですか?」
沈黙が続く。鶏の被り物の人物は、一切言葉を発しない。むしろ、妙にリアルな鶏の頭がこちらをじっと見ているようで、正直少し怖い。
「もしもし?何かご用ですか?」
すると、その人物は突然、鶏の鳴き声のような音を口から発し始めた。
「コケコッコー!」
「…えっ?」
ますます混乱する私。酔っ払いのおじさん、時計を齧るお婆さん、スマホを知らないお兄さんと、今日の訪問者はみんな変わっているが、この鶏の被り物の人物は、その中でも群を抜いて奇妙だった。
「コ、コケコッコー!」
再びその謎の人物が鶏の鳴き声をあげる。そして、こちらに何かを伝えようとしているのか、身振り手振りで必死にアピールしているが、全く意味がわからない。私は困惑しつつも、冷静に対応しようとする。
「すみません、あの…ソーセージを作ってるのは確かなんですけど、もう少し時間がかかるんです。えっと、何かそれ以外のご用件は…?」
「コケコッコー!」
再び意味不明な鳴き声が返ってくる。このやり取りに疲れを感じつつ、なんとか追い返す方法を考えた。だが、そんなことを考えているうちに、鶏の被り物の人物は、いきなりポケットから何かを取り出して私に差し出した。それは一枚の紙だった。
「…これは?」
紙には大きく「ソーセージ注文書」と書かれていた。
「え、注文書?これ…あなた、何か商売でもしてるんですか?」
「コケコッコー!」
どうやらこの鶏の被り物の人物は、ソーセージを注文したいらしい。しかし、手書きの注文書はあまりにも雑で、連絡先も書かれていない。困惑しながらも、どうにか対応しなければと考える。
「すみません、まだソーセージが完成していないんです。後で取りに来てもらえれば…」
「コケコッコー!」
また鳴き声が返ってくる。さすがに限界を感じた私は、仕方なくその人物に頷いて「出来上がったら連絡します」と伝え、ドアをゆっくりと閉めた。
「今日、何が起こってるんだ…」
キッチンに戻ると、酔っ払いのおじさんは相変わらず床で寝ており、時計を齧るお婆さんやスマホを知らないお兄さんも帰って行ったはずだ。だが、鶏の被り物の謎の人物が、頭から離れない。
「ソーセージ注文書なんて…一体どこで知ったんだろう…」
その疑問を抱えつつ、再びソーセージの様子をチェックする。ようやく、完成が近づいてきた。
「これで、落ち着いてソーセージが食べられる…はず」
そう思っていたのも束の間、突然キッチンの方から妙な音が聞こえてきた。
「ぐぅぅ…ぐぅぅ…」
「えっ?今度は何?」
恐る恐る音のする方を確認すると、酔っ払って寝ていたおじさんが起き上がり、今度は冷蔵庫の前でうろうろしながら何かを探している。
「ちょ、ちょっと!勝手に冷蔵庫開けないでください!」
おじさんはまるで私の声が聞こえていないかのように、冷蔵庫を物色し続ける。そして、ようやく手にしたのは、ビールの缶だった。
「おい、ソーセージまだか?ビールに合うソーセージが食べたいんだよ!」
「もう少しで出来上がりますから!勝手に飲み物を取らないでください!」
慌てておじさんを止めつつ、ソーセージの完成までの時間を再確認する。もうほんの少しで完成するが、なんだかどんどん疲れが増してきた。
「一体、今日という日はどこまで続くんだろう…」
そう思ったその瞬間、またインターフォンが鳴った。
「まさか、また…」
不安と恐怖が入り混じったまま、私はドアに向かう。
…続く
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