第2話 次々と訪れる奇妙な客たち
酔っ払ったおじさんが床で大きないびきをかいているのを横目に、私は深いため息をつく。もう、せっかくの静かな午後は完全に台無しだ。ソーセージもまだ完成まで時間がかかるし、とりあえずお茶でも飲み直そうと思った矢先、再びインターフォンが鳴り響いた。
「また誰か来た…今度は誰だ?」
恐る恐るドアを開けると、そこにはびっくりするほど小柄なお婆さんが立っていた。だが、奇妙なのはその手元。なんと、大きな掛け時計を齧りながら喋っているのだ。
「やあ、こんにちは。これ、食べられるかい?」
「え?食べられる?それって、時計ですよね…?」
「そりゃあ時計だよ。でも、おいしそうだったから齧ってみたんだよ。あんた、ソーセージ作ってるんだって?それが食べたくて来たんだよ。」
まさかと思ったが、どうやらこのお婆さんもソーセージ目当てで来たらしい。しかし、時計を齧りながら話すというあまりに不可解な行動に、返事の仕方がわからず混乱する。
「ええっと…ソーセージはまだ出来てなくて、あと少し時間がかかるんですよ。でも、えっと…その時計、大丈夫ですか?」
「おお、これは昔から食べてるんだよ。歯が丈夫でな。で、ソーセージの出来上がりはまだかね?」
お婆さんはまるで会話が成立していないかのように、再びソーセージについて質問してくる。とりあえず、時計の話題は放っておいて、なんとか追い返そうとする。
「まだ時間がかかるので、後でまた来ていただけますか?」
「んん、そうかい?じゃあ、後で戻ってくるよ。でも、今食べられるものがあったら教えておくれよ。時計も少し飽きてきたんでね。」
「いや…食べられるものは特に…」
「そりゃあ残念だね。ま、また来るさ!」
そう言って、お婆さんはニッコリ笑い、時計を齧りながらゆっくり去っていった。私はポカンとしたまま、ドアを閉めた。
「さっきのおじさんよりも、さらに奇妙な人が来た…」
再びキッチンに戻ると、酔っ払いのおじさんがまだぐっすり眠っている。これはもう目覚めるまで放っておこうと思い、改めてソーセージをチェックする。ようやくいい感じに熟成してきたが、まだ時間がかかる。
「このまま何事もなく、ソーセージが完成してくれればいいんだけど…」
そう願ったその時、再びインターフォンが鳴る。
「もう、今度は誰だ…」
重い気持ちでドアを開けると、そこには20代くらいの若いお兄さんが立っていた。しかし、その表情は不安げで、何かを探しているようだった。
「すみません、スマホってなんですか?」
「え?スマホ…?いや、スマートフォンのことですけど…」
「スマートフォン?何ですか、それ?」
「いや、えっと…携帯電話のことなんですけど…」
どうやらこのお兄さん、スマホを知らないらしい。21世紀にスマホを知らない人がいるなんて信じられなかったが、どうやら本当に知らないようだ。
「携帯電話もわからないんですか?」
「ええ…実はここに来る途中、みんなスマホ、スマホって言ってて、気になったもので。それより、ソーセージ作ってるって聞いたんですけど、もう出来ましたか?」
またもやソーセージ目当てか。どうやらこの界隈で私がソーセージを作っていることが広まってしまったらしい。さすがに疲れてきたが、ここでも冷静に対応する。
「すみません、まだ出来てないんです。もう少し時間がかかるので…」
「そ、そうですか…。あの、スマホのこともう少し教えてもらえませんか?」
「いや、ソーセージが出来るまで少し待ってもらえますか?」
そのお兄さんも追い返し、再びキッチンに戻ったが、頭の中はすでにぐちゃぐちゃ。酔っ払いのおじさんはまだ寝ているし、時計を齧るお婆さんにスマホを知らないお兄さん。落ち着く暇もない。
「なんなんだ、今日は…」
そして、またしてもインターフォンが鳴る。
ドアを開けると、今度は鶏の被り物を被った謎の人が立っていた。
…続く
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