2人きりの夏祭り

第49話夏祭りが始まる

「因みに夏祭りって何日なの?」


鹿児島にはサマーナイトという大きな花火大会兼夏祭りがある、屋台も多く出るし、こんな屋台まで出るんだっていう珍しい物もあれば焼きそばやかき氷といった屋台と言ったら、みたいな物ももちろんある、そしてサマーナイトの1番の目玉は花火だろう


1回だけ、確か保育園生の時に家族と見た事があるけど、今日まで忘れた事は無いし、今後も忘れる事はないと思う

なんせ、言葉を失うほどの綺麗な七色の花火が暗い夜空を美しくしていたから


多分だけどそんな花火をバックに澪の浴衣姿を写真に収めれSNSにあげれば1万イイネは確定だと思う


「あ、えっと」


澪は手を組んだり解いたりを繰り返していて、落ち着いてなさそうだ、その上白い肌がほんのりと紅に染まっていた


「13日です」


あ、ペルセウス座流星群やんけ、一緒に見るって約束してたっけ


ペルセウス座流星群

この世界にはよく三大なんちゃらみたいなのが良くあるが、流星群にも三大流星群というのがあり、ペルセウス座流星群はその内の一つでる


「花火の後にね」


そう言うと澪は耳まで赤くなり、なぜかおれの胸に顔を隠してぽかぽかと非力ながらも一生懸命おれの体を叩いた


隣から『あらあら』と口に手を添えながら言っているお母さんが見えたが、多分だけど澪は何か勘違いをしているんだと思う


おれはただ流星群を見ようと誘っただけ


◆◆◆


蒼君は13日の夜空いてる?って聞いてきました。

その理由はぺるせうすざ?流星群っていうやつを一緒に見たいからって言ってましたが……

やっぱりお母さんと彩姫さんとの女子会のせいであっち方向に少しだけ考えが進んでしまいます


そんな事は蒼君はしないだろうし、こんな思考回路をして、はしたない女って思われたくありません


それでも私は体が熱くなってしまいます


「澪ちゃん、これは私が買ってあげるわ」


私がドキドキしていると、隣から彩姫さんが財布を取り出しながら、言ってきた


「いや、でも」

「大丈夫よ、浮いたお金で夏祭りを楽しみなさい」

「わかりました」


彩姫さんについていき、お会計を終わらせた


「めっちゃ嬉しそうだね」

「そりゃあ、まぁ、浴衣ですからね、着てみたいって思うのが日本人でしょう」


それもそうだな、やっぱり日本人は和服が好きなんだと思う


おれは澪と楽しい夏祭りを思い浮かべると自然とかおがニヤけてしまった


そして、とうとう夏祭りである8月13日

案の定部活と被ってしまった


「おい蒼、ディフェンス甘いぞ」

「はい」


これ以上激しくしたら体力死ぬんだが


ビビビーーー


「2分給水」

「はい」


死にかけだったが、ディフェンス練習の終わりを告げるブザーの音でつかの間の休息になることに喜びを感じた


「はぁはぁは」

「ナイファイ」


先輩とハイッタッチをして、水筒のところに向かった。

いつもより長く感じたが、この後の楽しみを考えると少しだけ軽くなった


―――しかし、そんな状態は監督の言葉で崩れた


「次はランメニューな」


終わった




ランメニューの終盤に差し掛かり、もう足が軽いように重い。


「ラスト!次のスプリント全力で行け!」


監督の声が鋭く響きます。


視界の端に映るチームメイトの顔も、みんな同じように疲れている。


「いくぞ…!」


深呼吸を吸い込んで、笛の音とともに駆け出す。 足がもつれになりそうになるが、澪が応援してくれるって考えると何故か頑張れてしまう、腕を振り、コートの端から端まで全力で走る。


息が切れる。肺が熱い。鼓動は耳の奥で爆音を立て、頭の中まで響いてくる。


「ナイスプリント!あと一本」


殺すぞ


監督はおれらを騙した

ゴミ監督が――と思ったが、誰も弱い音なんて吐けない。


息が荒くなりすぎて、程度に酸素を吸ってないような感覚。でも、腕と足を許され続ける。汗が額を伝い、目に入りそうになるのを気にする余裕はない。ただゴール。まで、あと少し。


「ゴール!」


最後のスプリントが終わり、ラインを越えた瞬間に膝に手をつき、ガクンと体を震えるように倒れ込む。


「っ…はぁ…はぁ…」

息を整える間もなく、汗が滴り落ちる。練習着は完全に汗で張り付いていて気持ち悪いけど、それよりも、脚が崩れそうだ。


「あいつ、はぁ、ゴミだろ」

「それな…」

息も絶え間なく繰り返す。



体育館の端に置かれた水筒を手に取って、冷たい水が喉を通る。


やっと終わった――そんな安堵感に包まれながらも、どこか満足感がある。このきつさを乗り越えるたびに、おれたちは強くなってゆく。


「じゃあ、今日は終わりだけど、もう少しで合宿もあるから体のケアを怠らないように、それと――」




監督はなんか言っているが、もちろん全く聞こえない


脳内には澪の応援4割と監督の殺意6割が占めており、監督なんかの言葉に耳を傾けるのではなく、どのように殺そうかと考えていた

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