第46話お互い寂しい

「お父さんはいつまでこっちにいるの?」


設定上の男子会が佳境を出て、おつまみである柿ピーとチー鱈が無くなりかけていた


「後1日はいるかな」

「働くね〜」

「海外は黙れ」


え、滞在時間短

これが社会人にとっては普通なのか?


お父さんは自分の盃に入っている焼酎を少し眺め、全て飲み切った


「まぁ、これでも休めた方だよ、それに仕事は苦ではないしね」

「お前は好きだったものが仕事になったんだから良いよな」

「別に好きでは無いよ、おれが好きなのは育成ゲームだ」

「お父さんって教員だっけ?」

「おいおい、忘れてたのか?」


うん、忘れてた


「お前も教員としての考えはカスだけどな」

「まぁね、生徒に数学をどれだけわかりやすく教え、どれだけ良い点数を取れるかっていう育成ゲームだよ」


お父さんは笑いながら言ってたけど、普通にカスだな、これは擁護できねぇわ、


全国の先生達がこんな風に考えながら授業してる割合はどんぐらいなんだろう、普通に少しぐらいいそう


「じゃあ、男子会を終わろうか」

「そうだな、次会うとしたら正月か」

「そん時までになんか伝説作れよ」

「一応おれにも先生っていうプライドがあるからな」


プライドって……微塵も無いでしょ


おれはそんな事を思いながら、コップに水滴がつくぐらい冷えたコップに残っていたオレンジジュースを飲み干した


◆◆◆


「寝れない」


女子会が終わり、各々家に帰り流石に今日は蒼君と一緒に寝なかった。

久しぶりに自分の家のベッドで一人で寝る夜。布団にくるまって天井を見上げていたけれど、なぜだかいつもと違う感じがして、全然落ち着かない。


「おかしいですね…。自分の家のはずなのに…」


ぽつりと呟いてみても、部屋には返事をする人なんていない。昨日までは、蒼君の家で添い寝をしていた。その時は、布団に入るとすぐに眠れたのに、今日はどうしてこんなに寝付けないんだろう。

なんか言ったら返してくれた人がいない


蒼君の隣で眠っていた時間を思い出す。彼の呼吸の音が静かに響く中、布団の中で蒼君の温もりを感じていると、不思議なくらい心が落ち着いた。蒼君の存在がそこにあるだけで、まるで恐怖から蒼君が自分を守ってくれているような感覚になります。


しかし今、部屋にはその温かさがない。代わりに静かすぎる空間が広がっていて、妙に心細い。前だったら布団をぎゅっと掴んで体を丸めてみると暖かく感じたが、今日は暖かく感じない、やっぱり蒼君の家で感じた心地よさとは天と地の差があります。


「私、蒼君の隣で寝るのに、すっかり慣れてしまったんですね。」


少し自分に呆れながら、抱き枕を引き寄せてみるけれど、これも何か違う。抱き枕の感触では、蒼君の安心感には到底かなわない。

周りにはお人形さん達がいて、安心できたのに


その瞬間、ふと蒼君のことが頭に浮かんだ。あの優しい笑顔。眠る直前に聞こえた低く穏やかな声。そして、自然に添い寝を始めたあの日のこと。思い出すたび、胸がじんわりと温かくなるけれど、同時に寂しさがこみ上げてくる。


「蒼君、もう寝てますよね…」


スマホを手に取って、連絡しようかどうか迷う。でも、ただの添い寝をしていないだけでこんなに寂しくなる自分を蒼君に知られるのは、少し恥ずかしい気もして、結局メッセージを書いては消してを繰り返していました。


もう一度布団にくるまり、目を閉じてみる。けれど、蒼君の温もりを思い出してしまい、逆に目が冴えてしまう。いつも隣にいる彼がこんなにも自分にとって大きな存在だったなんて…。


「私、甘えすぎですよね…。こんなことで寂しくなるなんて…」


呟きながら、気づかないうちに顔が少し熱くなっていた。蒼君のことを考えると、どうしてこうも感情が揺れてしまうんだろう。

寝ぼけて、私を自分の体に手繰り寄せたりする蒼君

可愛い吐息を吐きながら寝る蒼君


やっと薄っすらと眠気が訪れた頃には、時計の針が随分進んでいた。けれど、心のどこかに残る物足りなさが、静かに胸を締め付けるようだった。


「明日は…また蒼君の隣で眠れるといいな…。」


最後にそんなことを考えながら、ようやく眠りに落ちる。けれど、その寂しさは、翌朝までほんのり心に残っていた。


◆◆◆


久々に自分の部屋で一人で寝る夜。布団に入ってみたものの、妙に違和感があって全然落ち着かない。


「なんだよこれ…。自分の部屋だぞ、俺。」


天井を見上げてぼそっと呟いてみても、返ってくるのは静寂だけ。時計の針が微かに音を立てて進むのがやけに気に障る。


昨日までは澪と一緒に寝ていた。もちろん何も特別なことがあるわけじゃない。ただ添い寝をしていただけだ。それなのに、なんだこの物足りなさは。


澪が隣にいたときは、布団に入ると自然に眠れていた。彼女の穏やかな寝息を聞きながら、少し乱れた髪が顔にかかるのを横目で見て、何度「可愛いな」なんて思ったことか。あの時はそれが当たり前のように感じていたけれど、今こうして一人になってみると、その安心感の大きさに驚かされる。


横を向いてみても、そこには誰もいない。ただ冷たい布団が広がるだけ。もう一度仰向けに戻り、布団をぎゅっと引き寄せる。けれど、それはまるで空気を抱きしめているようで、なんの温かみもない。


「やべぇな…。俺、完全に慣れちゃったのか?」


自分に呆れながら、スマホを手に取って澪に連絡しようか迷う。けれど、添い寝がないだけでこんなに寂しくなるなんて言えるはずがない。


彼女の寝顔を思い出す。少し恥ずかしそうに布団を引き寄せる仕草や、目が合ったときに微笑むあの顔。思い出すたび、胸がじんわりと温かくなる一方で、隣にいない寂しさが増していく。


「澪、もう寝てるよな…。」


一度手に取ったスマホをまた枕元に置き、目を閉じてみる。だけど、やっぱり眠れない。頭の中で何度も昨日の澪の声が蘇る。


『蒼君、ちゃんと寝てくださいね』


彼女にそう言われたのに、今の俺は何をやってるんだか。


仕方なく、もう一度布団を頭までかぶり直す。それでも澪の隣で感じた温もりがないせいか、心の中がぽっかりと空いたようだった。


「…明日はまた隣にいるのかな」


そんなことを考えながら、ようやく薄暗い眠気に包まれていく。けれど、胸の中の違和感は朝になってもどこか残り続ける気がした。







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