美しく貫いて
夕緋
美しく貫いて
純粋で汚れがないものを美しいと呼ぶのなら、僕は彼女のことを”美しい”と思う。
彼女はこの世界の中で異質なほど輝いている。奪い合う世界で生きているはずの僕らに、施しを与えてくれる。けれど弱い者に救済を与える彼女をよく思わない連中もいる。実際そんな連中が彼女を襲って来た時もあった。でも彼女は強い。あっという間に彼らを血だまりに沈めた。
「襲って来るから悪いのよ」
彼女は戦利品を漁りながらそう言った。
彼女は世界を侵す者に容赦しない。それは間違いなく弱い僕らを守るためだ。僕らから奪おうとする者、僕らの世界を壊そうとする者、僕らがこうなる原因を作った者、その全ては彼女の敵だ。
彼女はこの小さな世界の美しい女王様。例え襲って来た人間の背中にナイフを突き立てた後だったとしても、彼女の笑顔は燦然と輝く。彼女の救済の意思は、血に塗れていても美しい。
「──それが君の美学か」
あの日、僕を拷問した男にそう言われたっけ。あの時は美学なんて名前は付けないで欲しかったけれど、今はそれ以上に僕の意思を明確にする言葉も無いように思う。
僕は自分の不手際で捕まってしまった。彼女は今どうしているのか、分からない。ただ僕を助けに来ないということは、最後に僕が残した言葉を守ってくれているのだろう。
『あなたはそのままでいて、彼らを守ってください』
そうしてくれているなら本望だ。彼女は僕ではないから、捕まるようなことにはならないだろう。僕も秘密を守り切った。情報は一切渡さなかった。それで彼女の行動が阻害されてしまったら、僕は到底生きていけないから。
どうせ生きていけないのなら、僕は彼女の美しさを守るために死ぬ。
それができるなら、僕も少しは彼女のように美しくなれただろうか。
美しく貫いて 夕緋 @yuhi_333
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