隻眼の忌姫と言祝ぎのうた

花霞千夜

序章

生まれた時から、つづりには片目が見えなかった。つづりが少し大きくなってから、自分は片目しか見えないことに気がついた。言葉を話せるようになると、つづりは即座に父母に問いかけた。

「父上、母上は両目がみえるの?」

普通ではないつづりの純粋な疑問。突然、父母の顔が険しくなった。つづりはその様子に怖くなって、母に手を伸ばそうとした。その瞬間。

「ふれないでっ!」

母がつづりの手を突き放した。

「えっ、は、母上?ご、ごめんなさい。わ、わたし」

怖い。あの優しい母が豹変したようで。きっと、つづりが何か変なことを言ったのだろう。母はつづりを見て怯えている様子で、父はというと、そんな母をつづりから庇っているように見えた。まるで、つづりに近づけたくないような。今までそのようなことなんてなかった。一度も。

(どうして?わたしは何もしてないのに、、、)

母に怖がられ、父に険しい顔をさせている。わけがわからず、つづりは一生懸命父母に話しかけようとする。

「は、母上、父上っ。あ、あのねっ」

けれど、、、。

「母と呼びかけないで!声も聞きたくないっ。信じられないの、、、」

その場に泣き崩れる母。『母と呼びかけるな。声も聞きたくない。信じられない。』これらの言葉がつづりの頭の中を駆け巡る。母にこんなにも拒絶されている。衝撃だった。今まで幸せに暮らしていたつもりだったのに。あの楽しかったころはなに?父母がつづりに笑いかけてくれたのは、虚像だったの?あれは、夢だったの?たくさんの疑問がつづりの頭に湧き出てくる。きっともうそれには戻れないのだろう。あんなにも拒絶されれば、そう思うのが自然である。もう何をしてもだめなのだ。この時、幼いながらもそう悟った。けれど、母の『信じられない』、とはどういう意味なのだろう。その言葉だけがよくわからなかった。

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隻眼の忌姫と言祝ぎのうた 花霞千夜 @Hanagasumi824

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