第19話二人での生活

朝食を済ませる。

やはり気まずさというものはまだあるが、時折感じるマイの匂いに癒される時間を過ごしていた。


今日は昼まではイレイスの街にいるためまだ時間に猶予がある。

どう過ごすかはまだ未定だ。

そのためか不安と焦燥感と緊張と様々なものが重なりせっかく二人きりなのになにも出来ない。

これは別にやましい気持ちではなく、話すなど普通のことだ。

(先が思いやられるね)

うるさい!

そんなこと自分で気づいている。

いくら期待したところで自分から行動しないと叶わない。

それはわかっている。わかっているが、何も出来ない。



リーセスは目が覚めるとすぐに準備をしてローゼの部屋に向かった。

実は昨日しっかり時間まで決められて朝食を一緒に食べることを約束させられていたのだ

こんな言い方ではあるが嬉しいことではある。

しかし、婚約者とはいえ通常のカップルよりも会う時間は限られている。

遠距離恋愛という言葉がしっくりくるだろう。

だからか、彼女のことを好きという気持ちはあるのだが、どこまで表に出して接して良いのか分からない。

手始めに敬語はやめてもらおうと試みたのだが、それが良かったのかどうか未だに自分でもわかっていない。

だからこそやってくれそうなカイにも頼んでみたのだが、やはりよく分からない。

性別のためかとスタールにも試してみようと試みたが、さすがにやってもらえなかった。


ノックをすると待ち構えていたかのように扉が内側から開いた。

「時間通り来てくれて嬉しい。ちょっと早めに来てくれたらもっと嬉しいけど」

「それはすまない。入って良いか?」

周囲を確認しながらそう言うレクス。

婚約しているとはいえこんな早い時間に入るのが目撃されるのを警戒しているのだ。

「別に見られても大丈夫よ。婚約してるんだし」

「そ、そうだな」

ローゼにそう言われつつもまだ周囲をチラチラ見ているレクスにローゼは部屋の中に入るように勧める。



数分後、部屋に二人分の朝食が運ばれてきた。

使用人の女性が持ってきたのだが、二人が一緒にいるのを見て優しく微笑んでいた。


「ほら、気にする必要ないでしょ?」

その使用人の様子を見たレクスにそう言うローゼ。

その言葉にはもっと会いに来てくれても良いという思いも含まれている。

それが中々叶わないことも重々承知しているが。

「ああ、そうだな」



二人で食べるには少し狭い一人用のテーブル(一人用にしては若干広め)に二人分の朝食を並べる。

朝食のためあまり皿数が多くないためなんとか全て入る。

二人隣に座ると体が自然と触れ合うほど近い。


「食べにくくないか?」

「でも、こういうのも悪くないでしょ?」

レクスもまんざらでもなさそうである。

いわゆる照れ隠しである。それがわかったローゼも少し嬉しそうである。



時間は過ぎていきレクスが出る時間が近づいてきた。

最後に昼食を一緒に食べることになり、今回はさすがに別の部屋に移動して広いテーブルで食べることになる。

レクスが来るということでご飯も普段より豪華なものとなっており、品数が多い。

その分一品一品の量が少ないため特段多いというわけではないが。


レクスと婚約者となりこういう食事にもなれてきたローゼであったが、初めは普段よりも豪華なこの食事に驚いていたものである。

その度にレクスが王子であることを実感していた。

こういう立場がなければもっと自由に会うことが出来るのに、と考えたことはあるが、今ではそれだからこそ数少ない会える時間をより楽しめていると思うようになった。



その昼食も食べ終え、玄関までレクスを送った。

護衛のアゴットさんも来ていて少し挨拶をしてそのままレクスは旅立っていった。

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