第16話宿は・・・

その日、イレイスには不思議な光景が出来上がっていた。

変装した人物とフードを被った人物が腕を組んでカップルのように歩いている。

そんな光景は当然目立つため注目を集めていた。

「ほら、注目を集めてしまっているぞ」

「バレなければ良いでしょ?」

思わずため息をついてしまうレクス。

「ため息なんてついて本当は嬉しいくせに」

「バレてしまうとこの後に支障が出るんだぞ?」

「はいはい、照れ隠しをしなくてもいいですよ」

ほぼ図星のようなものだったため急に早足になるレクス。

「あ、ちょ」

それに対応しきれずローゼは転けそうになるが、途中で気づいたレクスがギリギリのところで支え完全に転けることはなかった。

しかし、そのひょうしに被っていたフードが外れ素顔があらわになってしまった。

レクスはそれに気づき急いでフードを被りなおらせて周囲を見渡すが先程までこちらに注目をしていたはずの住民達はいなくなっていた。

「大丈夫ですか?」

そうしているとアゴットが少し離れた位置から走ってきた。

ただでさえ異様な光景にさらに一人増えたらより注目の的になると考慮して離れていたのだろう。

「ああ、それより先程までいた周囲の人は?」

「それでしたら少し前から二人の様子がよろしかったので注目するのをやめたようです」

ふぅーと息を吐いて緊張を解く。

「さて、早く行くぞ」

「・・・・・・・・・」

それから機嫌を損ねたのかローゼが口を開くことはなかった。



「ようこそ、お越しくださいました。さあ、こちらへ」

「失礼します」

穏やかな初老の男性に座るように促されソファーに座るレクス。

「この度レクス様をご招待出来たこと、心から嬉しく思います」

「すまないがそう堅くならないで欲しい。こちらとしてもやりずらい」

「そうですな。義理の親子となるわけですし、なにより小さい頃からよく遊びましたからな。それにしてもまた背が伸びましたな」

レクスの言葉を受け態度が親戚のおじさんのように変化したこの穏やかな初老の男がこの街を統治しているローゼの父親であり今後義理の父となる人物である。

背が伸びたと言いながら頭を撫でる姿はまるで親子のようであった。

国王である本当の父親もいるが、立場上甘えることが出来ない。

そのためこういう光景は珍しいものであった。



「これ以上引き留めていると娘に怒られてしまいそうですな。娘の部屋に案内しましょう」

「・・・・・・よろしく頼む」

今回の目的は挨拶をすることだけであったためそれ以外は雑談だったのだが、それも一区切りつきローゼの部屋へ行くという流れとなった。

返事が遅かったのはレクスもローゼが明らかに機嫌を損ねていることに気づいていたためだ。

「それでは私は出口で待機してますのでごゆっくり」

「アゴット殿には客室を用意しましょう」

「それはありがとうございます」

「他にも誰かいるのではないですか?」

「そちらに関しては用意していただいた宿の方に向かいましたので」

「そうですか。てっきり話題の護衛の方が一緒に来られているのかと思いました」

「その護衛も来ていますが、礼儀は知っているのですが、世間知らずな所がありまして・・・・・・

この街の観光をさせています」

「おっと、引き留めないつもりがまた話し込んでしまいそうになってましたね。さあ、こちらへ」



その後ローゼの部屋の前まで連れてこられたレクスはその初老の男に見守られながら部屋に入っていった。

しばらくの沈黙の後ローゼが突然動き出し部屋の扉を開け周囲を確認する。

どうやら今までの沈黙の時間は外に誰かいる可能性を考えて待っていたようだ。

「レクスがいきなり早歩きになるから転けそうになったじゃない!」

「すまない」

すぐに謝罪の言葉を口にするレクスであったが、ローゼは止まる気配を見せない。

「そんなに私と歩くのが嫌だったの?」

「あれはバレるかもしれないからであって、」

「私よりもバレないことを優先したんだ?」

「それは・・・」

「フフッ、冗談。そんなことは承知の上で行ったからね」

安心からか長い息をはくレクス。

「勘弁してくれ」

「でも、まさか転けさせられそうになるとは思ってなかったけど」

「それは本当にすまない」

「許すかどうかは今後の行動次第かな」

その後、レクスが宿ではなくイレイ邸に泊まることになったのはそれから少し後の事であった。

さすがに寝る部屋は別々であったが。



夕食の後宿に向かった僕たちは衝撃の事実を知ることになる。

まず一つ目にレクスが宿ではなくイレイス邸に泊まることになったこと。

そして、レクスに用意されていた部屋はキャンセルし、僕たちは二人部屋で泊まることになっていたこと。

アゴットさんに事情を聞いてみると皆二人部屋をとっており、誰かが男女で泊まらなければならないとなったそうだ。その際僕たちが一緒に泊まれば良いんじゃないかとレクスが提案したらしい。

・・・・・・ここにはいないがレクスのしてやったという顔が目に浮かぶ。

そして、今日これからどう過ごせば良いんだ?

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