第12話恋愛は慎重に

マイが異様に近かったがそんな食事も終わり後片付けが始まる。

アゴットさんは準備の時と同じように全体の指揮を、マイも調理をしていた所で近くにある川から水を運んできて食器を洗っている。

魔法の水でするには魔力の消耗が激しいのだ。

僕はといえばレクスの護衛である。

マイが一生懸命に働いているのが見え手伝いに向かいたくなっているがそれをすると職務放棄になるため出来なかった。

「残念だったな」

「何が」

「初めての二人だけでの共同作業にならなくて」

視線からマイを見ていることがバレたのだろう。

レクスがからかってくる。

確かに今マイは一人離れて作業をしているため手伝いに行けば二人だけでの共同作業になるだろう。

「別に残念じゃ・・・・・・」

ないとは言えなかった。

なんなら今にでも飛び出して行きたい位だが、まだそんな関係ではないことは自覚してるし仕事を放棄することは出来なかった。

基本は面倒くさがりなのだが、一度引き受けた仕事は最後までやりきらないといけないという責任感は持っているのだ。自分でも面倒くさい性格だと思っているんだが、今さら変えることも出来ない。

「ないなんて言えない、だろう?」

何?心を読まれた?

図星のため何も言い返せない。

「まあ、私たちの中でお前に一番心を許しているのは確かだと思うぞ」

(それ以上かもしれないけど・・・・・・)

ソラのは無視しとこう。

そんなこと思ってたら本当に期待してしまう。

でも、レクスのは事実から考えれば妥当な考え方だと僕も思う。

まあ、見知らぬ人から知人に進化した程度だろう。まだ友人にもなれていないと考えた方が妥当だ。

何処かで恋愛に焦りは禁物だ的なことが書かれていた気がする。

そういうものはあまり読んだことが無いためもしかしたらテレビ番組で言われていたのかもしれない。

この際それはどうでも良いが、慎重に行くべきだ。


「魔獣だ!」

変なことを考えていると僕の仕事が出来たようだ。声の方に視線を動かすと遠くに魔獣が見えた。

この位の距離なら魔法が届くかな。

周りに人もいないみたいだしパパッとやっちゃおうか。

魔獣の方へ右手をかざす。

パキパキと音をたてながら氷がかざした手の前に出来上がる。

それを勢いよく魔獣の方に飛ばしてやると魔獣の眉間に当たったようで一発で仕留めることに成功する。

「ここからでも届くのか?」

「まあね」

(僕の訓練が役にたったでしょ?)

ソラが自慢げに言うが本当にその通りである。

まあ、その訓練も鬼畜難易度だったのだが。



魔法の訓練として瞑想的なことをしている時に急にソラから話し掛けられた。

「ちょっと僕に付き合ってくれない」

怪しさ満載のその言葉に僕は気が引けたがちゃんと付き合うことにした。


そしてソラに言われるがままついて行くと森の開けた所、以前というか今も続いている体力作りで走っている場所に連れてこられた。

今日のノルマは走りきったはずなのだが・・・

もう一度走らないといけないのではないかと身構えるがそうでは無いとソラ自身が言ったことで安心する。

「じゃあ、何を・・・・・・」

「ルールは簡単ここから遠くにいる僕に魔法を撃って届かせること。ちなみに僕はあの山の上にいるよ」

そう言いながら指さす先は目視でギリギリ見える辺りにある山だった。

「届かなくない。普通に考えて」

「それはどうかな?僕はあっち側から魔法を撃つから気を付けてね。ちゃんと手加減はするけど」

「手加減ってどれ位?」

「即死しないレベルかな」

それは手加減だとは言わないのではないだろうか。即死さえしなければ回復魔法で何とかなるとは思うけれど、意識を失えば終わりだ。それの意味するところはつまり今回も鬼畜難易度ということである。



魔法で視力を強化してソラの位置を把握し開始の合図なしにいきなり魔法を打ち込む。

その魔法は想像通り決してソラのいる山の上に届くことはなく途中で消える。

魔法は自分から離れれば離れるほど消えやすくなる。

そのため遠過ぎると当たる前に消えてしまうのだ。どうすれば届くのか考えていると予告通りソラから魔法が飛んできた。

消える予感を感じさせない火球はこちらに迫ってくる。

火というのがまた鬼畜なポイントで避けることが出来ない。避けたら山火事になる恐れがあるからだ。

火は元々の魔法のものから何かに映ると術者の魔力無しに燃え続けるのだ。

水のように無から有を生み出すと魔力の供給がいるが、火は同じように無から生み出しているがそれの熱によってそれ以外のものに燃え広がる。

つまり初めの無から生み出した火が消えたところで燃え広がった火は消えないのだ。

遠慮無しに火球を撃ってくるソラに対してこちらも火球で対応する。

張り合っているうちに徐々に僕の魔法がソラのいる山の近くまで届くようになっていき、そろそろ日が暮れそうになった時間に遂に届いたのだった。

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