第7話出会い 2

入学試験の翌日、レクスは最近ないがしろにしていた婚約者と過ごすということで護衛の仕事は休みだ。

婚約者うらやましいな。時々ナチュラルにのろけ話を聞かされるため本当に羨ましくなってる。

恋仲になって婚約したっていうんだからのろけ話の一つや二つあるのはわかるが、いない人の前では自重してほしいものだ。

まだ王都に来てレクス以外友人といえる人がいない僕の言うことではないかもしれないが。

そんな僕は外をブラブラしている。自慢じゃないが給料も結構もらっている。

日本とはお金の価値が違うから定かではないが前世より稼いでいると思う。

ちなみにこの世界のお金は硬貨だけで、下から銅貨、銀貨、金貨、石貨だ。石貨が一番上ってと思ったのは言うまでもない。何でもほとんど採ることが出来ない石を使っていて、模造されにくいらしい。

いくら給料が多いとは言ってもさすがに石貨までは貰ってない。だから見たことがない。

というかこの世界の人でも大半は目にすることがなく、貴族の中にも目にすることがない人もいるのだとか。

石貨を1度でも良いから見てみたいな~なんて思いながら歩いていると、9人位の男が1人の女の子を囲んでいるのが目に入った。女の子危なくないかと思った僕は周りの目を気にしながら透明化の魔法を使い近づき会話を聞くことにする。

「俺達と遊ぼうぜー」

「そうそう良いお店知ってるんだよ」

「最後にはお楽しみタイムもあるぜ」

これは無理やりにでも連れて行かれそうな雰囲気だな。なんて思っていたら1人の男が女の子の腕を掴もうとしている。これは助けた方が良いかと思い、透明化の魔法を解除しながら今にも女の子の腕を掴もうとしている男の腕を掴みながら

「お兄さん、この子嫌がってますよ」

と言ってみた。これでは引き下がらないだろうけど。

「なっ!!どっから現れやがった・・・その子嫌なんて一言も言ってないぜ」

その言葉には本当に溜め息をつかざる終えなかった。

「大の大人が9人も揃って囲ったら思っても言えないでしょう」

「なめんなよ、ガキが!」

僕の言葉が頭にきたらしい。そう言って殴りかかってきた。

普通の人間では対処出来ないだろうが僕はソラとの訓練で武器を持ってなくてもある程度戦える。

攻撃魔法は王都内は特定の場所以外使用禁止だから論外。

特定の場所は、魔法学校の訓練場と練兵場位だったはずだ。

そんなわけで殴り掛かってきた手を取り、もう1人の近づいて来ていた男の方に軌道修正してやる。

すると止めることも出来ずそのまま殴った。心の中で笑いながら後の8人は透明化の魔法を使いつつ背後を取り1人1人気絶させていった。そして全員が気絶したのを確認し、囲まれていた女の子の方を向く。

「大丈夫だった?」

女の子はなぜか少しうつむいていたが、

「あ、はい。あの貴方こそ大丈夫ですか?」

そう言いながら顔を上げた。黒髪を肩まで伸ばしていて黒目、顔立ちが整っている女の子だった。どちらかと言うとカワイイ系だな。

・・・・・・ドタイプだ。やばい、前世でもこんなに一瞬で好きになることなかったのに。

一目惚れして無言になっていた僕を女の子は心配そうに見ながら

「どこか怪我でもされましたか?」

と聞いてきた。心配させている。ここは一旦冷静になろう。

「い、いや、どこも怪我してないよ。」

「そうですか、良かったです。この後時間ありますか?お礼をしたくて」

そう微笑みながら尋ねてきた。可愛い過ぎだろ。そう思いながら

「時間はあるよ。ただお礼は良いよ。そんなに強い相手でもなかったし」

「そうですか。でも助けて頂いたのは事実なのでお礼はします。私の家は飲食店なので、ご飯を食べていきませんか?代金は良いので」

そういえば、もうすぐお昼だな。こんな可愛い女の子に誘われたら行くしかない。

(これは、手間が省けたな・・・・・・そんなに好きなら告っちまえよ)

初め何言っているのか聞き取れなかったけど最後の部分は聞き取れた。

ソラはこの状況を楽しんでやがる。こっちは嫌われないように必死なのに。とりあえず無視だ。

「じゃあお言葉にあまえようかな」

「では、着いてきて下さい」



そこから少し歩いたて着いた先は以前レクスに紹介されたスタール亭であった。

外には相変わらず美味しそうないい匂いが漂っている。

そんなことを考えていると、ここですと言いながら女の子は入っていってしまった。

「ただいま、お母さん」

「おかえりマイ。あら、そちらの方は?」

「私を助けて頂いたからお礼をするために来ていただいたんだ」

「そうなの?娘を助けて頂いてありがとうございます」

「いえ、当然のことをしたまでですから」

「あら、とてもいい方じゃない。まさかマイもう付きあ」

「付き合ってません!!」

事実なんだけど即否定はちょっと悲しい。

「あらあら、そんなに興奮しちゃって」

「興奮してないから」

「お礼をするんだったね。個室が一部屋空いてるからそこにお通ししな」

「はーい」

少し拗ねた感じで返事しているのもまた可愛いな。ダメだ。この子といるとすぐ脱線しちゃう。

(だから告っちまえよ。親は賛成しそうな雰囲気だったぞ)

告れとうるさいソラはほっとこう。そして個室に案内された。

注文などを済ませると、女の子、会話からしてマイが話かけてきた。

「改めてありがとうございました。私はマイ=スタールといいます」

「僕はカイ=マールス、レクス・・・・・・王子の護衛をしてるんだ」

「えっ!!それって入学試験でレクス様より強い魔法を使ったって言うあの?」

それ広まってるんだ。まだ昨日の話なんだけど。ここは否定しないでおこう。マイに嘘をつきたくない。

なんというかそう思ってしまう。

「そうだよ」

「あ、あの私に魔法を教えて下さい」

「え?あ、うん。なんで?」

「私も魔法学校に入学する予定なんです。

ある程度は魔法を使えるんですが授業についていけるか不安で・・・・・・」

これはお近づきになれるチャンスかも・・・・・・

じゃなくて前世でも進学するときの悩みの1つだったからな。

僕が教えることでその不安を解消出来るなら協力するほかない。

(絶対お近づきになれるチャンスとしか思ってないだろ・・・・・・にしても都合が良かったな)

・・・・・・図星なのが悔しい。後最後なんて言ったのかわからなかった。

どうせ僕をいじっているだけだろうと気にしないことにした。

「僕で良ければ教えるよ。今後、護衛の仕事の休みも増えそうだし」

そう、休みが増えそうなのである。理由はレクスが最近婚約者と会ってなく、その婚約者の人が怒っているらしい。なので今後そんなことがないようにするだろう。てか、いつもの勘で怒られるの察知して会いにいけよ・・・・・・もしかして、わざとか?ってことは相当なMだ。

なんというかイメージがぶっ壊れそうだからやめておこう。

まあそんなわけでレクスが婚約者と会っている間は暇になる予定だったのだが、予想よりも充実したものになりそうだ。



時は少し遡る。

マイは男の集団に囲まれていた。人見知りで特に男性が苦手の彼女はどうすることも出来ず半ば諦めかけていた。

そんな中で1人の男がこちらに手を伸ばしてくる。ここまでかと思い目を閉じるが一向にその手が来ることがなかった。声が聞こえ始め先程までとは違う声が混じっていることに気づき目を開ける。

わたしに向かって出された手は私に届く直前に見知らぬ男の人が止めてくれていた。

助けてくれたのは嬉しいが、そこには9人の男達がいる。1人で相手をするのは厳しいだろう。

そう思いながらもなにも出来ずに様子を見ていた。

案の定、男が殴りかかっていったのでその後の惨状を見るのが恐く目を背きうつむいた。

その直後、殴られた音が聞こえた。多分私を助けてくれようとしていた男の人が殴られたのだろう。

このまま男達に連れ去られてしまうのだろうと思っていたのだが、一向にその気配がない。不思議に思っていると、

「大丈夫だった?」

そう声をかけられた。さっきの男達の声では無かったので答えようと思い、顔を上げながら、

「あ、はい。あの貴方こそ大丈夫ですか?」

殴られてた音してたし。そう思いながら顔を見る。

見ていると不思議とドキドキしてくる。そのことを不思議に思いながらも返事がないので怪我をしてしまったのだろうかと思い、聞いてみる。外傷はないがどこか痛むのかもしれない。

「どこか怪我でもされましたか?」

「い、いやどこも怪我してないよ」

この時他人とは思えないほどほっとしたことにマイ自身も気づいていない。

「そうですか、良かったです。この後時間ありますか?お礼をしたくて。」

自分でもそんなことを言ったのが信じられない。

男性が苦手な彼女は出来るだけ男性とは関わらないようにしてきた。

しかし、自然とお誘いしたのだ。そう自分の発言に驚いていると、

「時間はあるよ。ただお礼は良いよ。そんなに強い相手でもなかったし」

その答えに何者なのだろうかという疑問を抱いたのだが、自分を助けてくれた人に聞くのは失礼だと思い遠慮した

「そうですか。でも助けて頂いたのは事実なので、お礼はします。私の家は飲食店なので、ご飯を食べていきませんか?代金は良いので」

男の人はこの提案を受け入れてくれたので店に案内する。

この時は1つ忘れていた事がある。それは男を連れて帰ったときの母親の追及がくることだ。

案の定、店に入った途端にその母から

「まさかマイもう付きあ」

「付き合ってません!!」

反射的に言ってしまった。こんな断言しちゃったから嫌われたかも。

そんなことを気にしていると、興奮していると指摘を受けた。もちろん否定したのだが、それを無視して個室に案内するように言われた。

案内して注文するように促すと遠慮しているのか少なめだったが頼んでいる。

その間つい彼の顔をずっと見てしまっていた。いや、目がはなせなくなっていた。

そのことに気づき無理矢理視線をずらす。


幸いばれていなかったためしていなかった自己紹介をする。

彼も自己紹介してくれたのだが、まさかの王子様の護衛だった。

昨日の入学試験でものすごい魔法を使ったと王都中で話題になっているそんな彼にあることをお願いする。

それは、魔法を教えてくれというもの。

それらしい理由を付けたがそれは建前であり彼にまた会いたい、その思いからのお願いだった。

その思いを知ってか知らずかそのお願いを快諾してくれた。



カイとマイがそんなことをしていたころ王城のレクスの部屋では、レクスが疲れきっていた。

理由は婚約者からお叱りを受けていたから。好きな者からの言葉は身にしみるものだ。

それを今まさに実感していた。一方の婚約者の方は言いたいことを言ってすっきりした表情になっている。カイ程ではないがレクスに遠慮をしていない。それはレクスがお願いしたことである。それでも始めは遠慮している所があったのだが、そうするとレクスが不機嫌になるのだ。そのレクスの努力?のせいか今では遠慮をしていない。だからこそ叱ったり出来るわけだ。

ただ少し叱りすぎたかもしれないとレクスの疲れきった様子を見て思った。

「レクス、さっきの話はこれでお終い。お話しましょ」

「ローゼ悪かったな」

ローゼというのはレクスの婚約者の名前だ。

オレンジ色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばしており見た人皆お淑やかだと思うであろう印象がある。

先ほどの様子を見ていなければだが。

「それを許すかわりに最近のことを聞かせて」

それからレクスは最近の話を話し始めたのだが、この後根掘り葉掘り聞かれ別の意味でまた、疲れきることになるのだった。

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