第3話 横柄な依頼人と、秘密の行方
「イーノおはよう、これ朝ごはんね」
まるで当たり前の様に、レインは朝食として、用意してきた、サンドイッチを、イーノの机に置いた。
「おはようレイン。毎日そんな事しなくてもいいのに」
「何を言ってるの?健康な朝食は、いい一日のスタートなんだから、しっかり食べてね。それで、まだここに住むつもりなの?」
何度も聞かれた質問だった。
あれから年月が経ち、イーノは青年と呼ばれ始める年齢になっていた。そんな彼が、ドゥという少女と一緒に暮らすのが、レイン的には気に食わないらしく、早くここを出て、一人で住まないかと、何回も催促していた。
「別に今すぐ出る理由も、すぐ住めるところもないから、しばらくはこのままだって、前も言ったでしょう」
言い返したい気持ちではあるが、事実ではあるので、イーノへの反論をレインはぐっと飲みこんだ。
「ご馳走様、レインいつもありがとう」
「どういたしまして」
イーノは朝食を終えると、そろそろ支度をするからと、レインに帰宅してもらった。
着替えが終わると、部屋を出て、いつもの様に事務所に入る。イーノが一番最初に入った事務所は、物静かで、一日が始まったばかりだと、しみじみと感じ取れた。
清掃が終わり、綺麗になった事務所を持て、すっきりとした気分でいると、ドゥが現れた。挨拶を交わした二人は、紅茶を淹れると、それを飲みながら、ボスを待っていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。
ドアを開けると、やけに煌びやかな服装とアクセサリーを身に着けた、お腹の大きくなっている中老ぐらいの男だった。
「ここが何でも屋だと聞いたが、あっているかな?」
これまで何十人、何百人と言われて、聞きなれた言葉の端からは、傲慢さが垣間見えた。
「そうですけど、どなたですか?」
イーノは、依頼人と思われる、男について、聞くことにしつつ、ソファーに座るように、エスコートした。
「私はアーゲス・マークだ。この名前は、お前ら庶民でも、聞いたことはあるだろう?」
傲慢な態度のまま、男はつづけた。
「私はしばらく、この街に身を隠すことにした。それはあることを知ってね。だからその期間、君たちに守ってもらいたい」
「俺たちにですか?」
話しを聞いていくと、なんだか胡散臭い話と、なぜここに頼るのかという疑問がでて、それが口を突いて出てくる。
「私だって、庶民の何でも屋なんかに、頼りたくはないさ。仕方なく君たちに頼むだけだよ。報酬だって弾んでやるさ。いくら欲しいか言ってみなさい」
明らかにこちらを見下しながら、話す態度に、ドゥは嫌悪感をむき出しにする。
「えっとですね、申し訳ないんですが、ボスがまだ来ていないので、依頼を受けるかどうかの判断が、我々ではできかねてしまいまして…」
イーノは、ドゥをなだめながらも、男に対して、あくまで角が立たない様に、対応を続けていた。この技術は、何でも屋に来てから、自然と養われていったものだった。
「どうしたんだ?依頼人かな?」
噂をすれば影とはよく言ったもので、そのボスであるボレアが、事務所に入ってきた。よく見ると傍らには、先程たまたま合流したという、レインの姿があった。
「レイン、帰ったんじゃなかったの?」
「たまたまそこで会って、話がはずんじゃってつい」
てへといたずらっぽく笑う彼女だったが、仕事の話を聞かせるわけにいかないと、レインには帰ってもらうように言う。その様子を全く気にすることはなく、ボレアは、事務所のいつもの椅子に座り、新聞を読み始める。
「君かいボスというのは?」
「そうですが、あなたは?」
「私はアーゲス・マークだ。何でも屋なら、私の名前くらい知っているだろう?」
アーゲス・マークその名前は有名だ。何でも屋だからとか、関係なく、今アメリカで有名な資本家と言ったら、すぐにでも名前が挙がるであろう人物だった。しかも、黒い噂も絶えなかった。政界に影響力を持っており、なぜそんな人物が、ここに来たのかと、ボレアは訝しげな表情を浮かべた。
「もちろん、知っていますよ。そんな大物が、うちに何のご依頼でしょうか?」
アーゲスは横暴な態度を変えることなく、ボレアに先程と同じ説明を繰り返した、その説明を聞いている、ボレアの表情に、今にも破裂しそうな風船のような、不安をイーノは感じていた。
「というわけだが、私の依頼を引き受けてくれるかい?」
「お断りします」
予想外の回答に、イーノとアーゲスは驚きを隠せなかった。
ボレアは人柄で仕事を選んだことはなかった。今までだって、横暴な依頼人に出会ってきた。そのたびに、表で笑顔で接して、依頼人のいないところで、愚痴を言って、イーノになだめられていた。
そんなボレアが、あっさりと断りの言葉を言った。
「貴様、私の依頼を断ると言ったのか?私の依頼だぞ」
「はい、断ると言いました。ですから、もうご帰宅いただいて、結構です」
ボレアは、ドアの方に手を向けながら、穏やかな口調で言い放った。
「貴様、後悔しても知らないぞ」
脅しともとれる言葉に、ボレアは聞く耳を持たず、新聞を広げた。
アーゲスは、怒りをあからさまな態度で示しながら、事務所を出て行った。
「にしても珍しいですね、お金にもなりそうだったのに。いつもなら高額請求吹っ掛けて、引き受けそうなのに」
イーノが入れた紅茶を、ボレアのテーブルに置きながら聞く。
「何を言っているんだ、あんな爆弾うちに扱えるもんか」
「爆弾って、アーゲスですか?確かに横暴でしたけど、いつもはそれじゃ断らないじゃないですか」
「何を言っているんだ、彼が持っている情報の方だよ」
「情報?」
アーゲスは確かに、何かの情報を握っていると、言っていたが、具体的にどんな情報を持っていたかについては、述べていなかった。
「あいつの持っている情報は、きっと本物さ。そして、それは一般人が首を突っ込んだら、危険なものだよ。下手したらバーン」
ボレアは、自分のこめかみに手で作った銃を当てて、ふざける様に言う。
「彼が何でここに来たと思う?本当に、命の危険があるなら、警察なりに頼ればいい。それが出来ないのが、ここに来た答えだよ」
気付いたことに関して、最後まで言わずにボレアはいつもの日課に戻った。
翌日、いつもの様に朝食を食べているイーノに、一つのニュースが届いた。先日何でも屋に依頼に来たアーゲスが、スラム街で遺体となって、発見されたのだった。
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