ポイント0485 7D3
@oshiuti
7D3
ポイント0485
かつて大都市として栄えたソコは、戦禍と混乱により廃れ、今や犯罪者の巣窟と成り果てた。
そしてそこには、訳あり共が山程集まり
それ故に生まれる商売もある。
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ドアを開けると、そこには老人がいた
「ご依頼した者です」
「入れ」
7D3は、男を室内に招き入れた。
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ドアを開けると、そこには少女がいた。
「依頼したフローリアよ」
「入れ」
7D3は、少女を部屋に入れた。
「殺風景なとこね」
「セーフハウスだからな」
古ぼけたソファと机だけの部屋で、7D3は立ったまま、フローリアと名乗る少女はソファに座り対峙する。彼女が体を動かすたびに、その両耳についた鈴のイヤリングがりんりんと音を立てた。
「依頼内容は、この男の殺害。5000ルアの仕事よ。」
フローリアは画像データを出した。写っているのは老人が一人。
「だいぶ払うんだな。それくらいヤバイのか」
相場の1.5倍の値段だ。5000ルアあれば7D3より良い殺し屋や始末屋に依頼できるはずだ
「アンタはこの男に接触したことがある。調べはついてるのよ。だからこその依頼よ」
フローリアは得意そうに腕を組んだ
「…なるほど」
7D3は頷いて、画像データを読み込む
「殺害に必要なデータはソコにまとめてあるの。期限は早いほうがいいけど決めないわ。よろしく」
画像データに紐付けされた行動パターンと襲撃ポイントなどを、7D3は自身の武器と付き合わせる。
「…何故、この男を殺す?」
「余計な詮索はしないでよ」
フローリアはかなり強く拒絶するが、7d3は構わず続ける。
「ある程度は聞かなきゃならん。組織同士の抗争なのか私怨なのか、理由次第じゃこっちの身の振り方も変わる。」
その言葉に、渋々とフローリアが口を開いた
「…父親よ。わたしの。わたしを選ばなかった、父親。」
「私怨の復讐か。なるほど。」
「わたしの気持ちに答えてくれなかったの。私には父しかいないのに、父は私だけを見てくれなかったわ。」
「…なるほど」
「…殺害の実行には私も立ち会う。それが条件よ」
「…ご自由に」
7D3は会話を終え、準備に入る。
「実行は明日だ。早いほうがいいんだろ、あんたも」
「…そんなに早くできるの?」
「…7回目だからな」
「え?」
小さく呟いた7D3の言葉は、フローリアには聞こえなかったようだ。
「なんでもない。明日の1400にココにこい。立ち会いの上で殺す」
「わかったわ!」
フローリアは嬉しそうに微笑み、その耳の鈴飾りがりんりんと鳴った。
「ついに、パパは消えて、私だけのパパになるのね…」
うっとりと笑うその顔に、7D3は呆れたようにため息をついた。
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招き入れられた老人は、殺風景な部屋のソファに座る。
「ご依頼は、『娘』の破壊です」
老人の姿に、一瞬、人間では見えないノイズが走る
「…お前」
「いま送りました。」
7D3のプロテクトされている領域に、情報が送られてきた。
「…これくらいのプロテクトは余裕かよ」
老人はにやりと笑う
「…あんたは、メイレン・ディオスか」
「データは入れていただけたようですね」
「全部読んだよ…娘を嵌めるのか、ある意味」
「ええ。」
7D3が静かに頷く
メイレン・ディオスと名乗る老人から、静かな駆動音がした。
「よろしくお願いします。始末屋さん」
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翌日
1400
メイレン・ディオスは、ポイント0485、旧市街地エリアにいることをフローリアはハッキングで突き止めている。
特殊迷彩ユニットとレーザーライフルを抱えて、7D3は狙撃ポイントへと向かう。
後ろに立つフローリアは、ニコニコと嬉しそうだ
「ようやくパパが、私だけのものになるのね」
そのうっとりとした呟きには応えず、狙撃ポイントである廃墟のビルの2階に座り込む。
「うふふ…ねえ、パパ」
ゆっくりと照準を合わせ、センサーと指を同調。
カメラアイの向こうに、廃墟の片隅に立つ男がいる。メイレン・ディオス。それは殺しを依頼した目標にして、7D3に殺しを依頼してきた男だ
狙撃といっても200mしか離れていない。
だが廃墟の片隅であちらからはコチラが見えない。
7D3は引き金をゆっくり引いた。
一瞬だけ光が瞬き、レーザーがメイレン・ディオスを貫き、
メイレン・ディオスが、こちらを見た。
「彼」の纏っていた、偽装用ホロユニットがレーザーで崩壊した
「え…あれ…?」
フローリアの耳の鈴が鳴る。
そのまま7D3は、出力を上げたレーザーライフルを、自分の後ろで驚きに飲まれているフローリアに何発か撃ち込んだ。
「え…あ…」
メイレン・ディオス、いや、メイレンに化けていたのは一人の少女だった。
ホロユニットの欠片を撒き散らしながら、彼女は此方に向かってくる。
「依頼はこなしたぞ。」
「ええ。ご苦労さま。んで、アンタはさよなら」
メイレン・ディオスに化けていた女は、小型のレーザーガンでさらにフローリアを撃つ。
バチバチと火花が散り、フローリアは倒れた
「あ、あああ、ががが、ぱぱぱぱ」
「うるさい」
再度撃ち込まれるレーザー。
フローリアは沈黙した。
「…タイプフローリア。愛玩用アンドロイド。しかし暴走して廃棄、ってところか」
「そうそう」
フローリアを撃った女と7D3は話し始めた。
「…タイプフローリアに仕込まれたプログラムは、親の愛に応える…つまり、パパと呼ぶ対象に従順な人形となるための愛玩用バイオスキンドロイドなの。」
女の言葉を聞きながら、7D3は飛び散ったホロユニットを片付け始める。
「なんだそりゃ」
「けれど自己進化AIとそのプログラムが同時進行した彼女達プロトタイプは暴走。セイフティすら解除して、開発者であるメイレン・ディオテス、つまり父親を殺害したの」
片付けたホロユニットに低出力でレーザーを浴びせ、製造元などがわからないように焼いていく。
「なんでまたそんなことに」
「独り占め出来ないからよ。これは愛玩プログラムとAIのバグで、基本セイフティが起動しなかったことも要因だけど」
雑談しながら片付けたそれらを、道の端に蹴り出す。これで大体の証拠はなくなった。
「おっそろしいオモチャだ」
「その恐ろしいオモチャは各地に逃走…とくにこのポイント0485とかね。で、それを始末するためにアタシがホロユニットで変装してエサになってたわけ」
依頼人はつまらなさそうに周りの残骸を見渡す。
「父親を再度殺しに来るのか?」
「基本はAIだもの。同一個体へのリアクションは同じよ。オリジナルを除いて」
「なんでそんな殺意が高いんだ」
「プロトタイプは8体作られたけど、8体存在することがそもそも裏切りだと思ったらしいわ。【私だけを愛さないお父様はいらない】ってとこかしら」
「…ほんとにおっそろしいオモチャだな」
「それくらい愛されたいって人間がいるんじゃないの。よくわからないけれど。」
撃破されたフローリア型の残骸は穴だらけで、美しい顔などはもう見る影もない
「そういや、依頼されるのはなんで俺なんだ?」
そのフローリアの残骸に、先ほどと同じようにレーザーを浴びせながら7D3が聞いた。
「父親登録された人間意外の顔に懐かない。アンタみたいなメカヘッドや非人型ドロイドに依頼する傾向があるわ」
「失礼な奴らだ。俺は人間だぞ」
「見た目の話よ。それにアンタがその見た目だから出来た仕事よ」
「まあ、そうなるな」
7D3は不服そうに頷いた。
「ま、とりあえず逃げ出したプロトタイプはこれで7体を破壊。アタシも開放されるってわけ」
「なるほど」
「ええ。これでパパはアタシだけのモノになるわね」
そういって、依頼人は艶然と笑う。
「…タイプフローリア、No.01」
「急にアタシの名前よんで、どうしたの。」
「それは、プログラムなのか、感情なのか」
「おかしなこと聞くのね」
耳の鈴がりん、と鳴る
駆動音を隠すための装飾が
「アンタたち人間は、これを」
依頼人のメイレンに化けていたフローリアは、とびっきり美しく微笑んだ。
「愛って、呼ぶんでしょ?」
fin.?
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