第9話 友達が出来ました
「あんた、大丈夫?」
残った女の子二人のうち、赤髪の女の子が声をかけてくる。
「うん、一応怪我とかはないし、大丈夫だよ」
「そう、それなら良いわ」
赤髪の女の子がグレトくんの席に目を向ける。
「あいつ、伯爵の子どものくせに、マナーがないのかしら……」
「ふーん、グレトくん伯爵の子どもなんだ」
「……知らなかったの?」
俺が頷くと、赤髪の女の子は呆れたように溜め息をついた。
「この辺りは、アイアン侯爵が治めるアイアン領だけど、私やグレトが住んでいるインフィールとその周りの村は、グレトの家…フィード伯爵が管理しているのよ」
へぇー、そうなんだ。 そもそも、侯爵や伯爵がよく分からないけど、話を聞くに、侯爵という貴族のお手伝いをしている貴族が伯爵ということかな?
「ふーん、そうなんだ」
「……本当に分かってる?」
「う、うん、分かってるよ? もちろん!」
赤髪の女の子が俺を怪しむように見てくる。 よく見ると、綺麗な赤色の瞳をしているなー。 髪は肩に付かないくらいのショートヘアで、さらさらしてそう。
「なに?」
「あ……いや、なんでもないです」
ずっと見ていると赤髪の女の子が若干不機嫌になった。
「あ、そういえば、自己紹介をしていなかったね。 俺はシクル。 出身はここ、プリーム村だよ」
誤魔化すために、まだしてなかった自己紹介をする。
「……私はアベリア。 インフィール出身よ」
赤髪の女の子――アベリアも自己紹介を返してくれた。
すると、今までずっと黙っていたもう一人の女の子が、こっちに来る。
「えっと! わ、私はメイって言います! あ、アベリアちゃんと同じ、インフィールが出身です!」
メイという女の子が一生懸命に自己紹介をした。
メイは、亜麻色の髪を肩に若干つくくらいまで伸ばしており、その瞳は綺麗な翡翠色をしている小柄な女の子。
「あの! 二人とも私と友達になってくれませんか!」
メイが両手を俺とアベリアの前に突き出す。
「え、えっと、良いけど……むしろ、こちらこそよろしくね」
アベリアがメイの片手を優しく包むように握手する。 そして、俺に「早くしなさいよ!」と言わんばかりの視線を送り、急かしてくる。
「……うん、よろしくね」
俺はメイの空いている片手と握手する。
すると、メイははち切れんばかりの笑顔を俺たちに向けてきた。
「うん! よろしくアベリアちゃん! シクルくん!」
うーん、守りたいこの笑顔。
はっ! この子もそうだし、アベリアもそうだけど、七歳だから幼すぎて考えてなかったけど……大人になったら、すごい美人になるのでは? よし! ハーレムの第一歩として、この二人を攻略しよう!
……でも、女の子と仲良くするにはどうしたら良いんだろう。
「……あんたどうしたのよ、考え事?」
「え、いや、別にやましいことなんて考えてないよ?」
「……ふーん、やましいこと考えていたんだ」
な、誘導尋問だと……!?
「そんなことより! アベリアちゃんダメだよ! ちゃんとシクルくんのこと、名前で呼んであげなきゃ!」
「え」
アベリアから呆けたような声が出る。
「お母さんが言ってたよ、お友達のことはちゃんと名前で呼ばないとダメだって」
「いや、私は別にこいつと友達になったわけじゃ…」
「だから、こいつとか言っちゃダメ!」
「えぇ……」
アベリアが俺をチラッと見てくる。
そして、覚悟を決めたかのように、口を開いた。
「し、シクル!」
なんだこれ。 どういうプレイ?
「うん、アベリアちゃん偉い偉い!」
「うぅ……」
メイが顔を赤らめているアベリアを、母親のように褒める。
「よし! 今度はシクルくんの番だよ!」
「え、俺?」
「うん! シクルくんもアベリアちゃんのこと名前で呼んであげて」
oh、まさかの俺もか……。
「ん、まーいいけど」
「へ?」
俺は、今もなお顔を赤らめているアベリアを見る。
「アベリア」
「……っ!」
俺が名前を呼ぶとアベリアの顔がもっと赤くなる。
「ちょ、こっち見ないで……!」
プイッとアベリアが顔をそらす。
「ふふん、アベリアちゃん可愛い」
「べ、別に可愛くない…!」
メイが満足そうにアベリアを見ているが、アベリアが弱々しくも抵抗している。
そうか、これが百合か……。
――――
「それじゃ、また明日」
「シクルくんまたね~!」
メイたちと校門で別れる。
ちなみに、メイたちが住んでいるインフィールの町は、このプリーム村からそれなりの距離がある。
じゃあ、どうやって帰るのかと言うと……。 学校には、転移魔法の魔法陣が設置されており、その魔法陣を使って帰ることが出来る。
この魔法陣……かなり便利だけど、もちろんデメリットがあって、定期的に魔力を供給しないといけなくて、そのうえ、転移先の変更をすることが出来ない。 そのため、五つの町村から生徒が来るこの学校には、学校が建てられているプリーム村以外の四つの町村分、四つの魔法陣が設置されている。
俺が自宅の扉を開けると幼い黒髪の女の子が飛び出して来た。
「おかえりなさい、にぃに!」
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