第6話 魔法を初めて見る

 現在、牧場を後にした俺たちは村の共有資材置場に来ていた。


「よし、シクル! 今から魔法使うから見てて!」

「え?」


 魔法? ねぇね魔法使えるの? お父さんは使えないのに?


「ねぇね、魔法使えるの?」

「うん! 学校で習ったの!」


 この国では、七歳になる年に学校に通うことが義務付けられており、ねぇねは現在十歳であり、学校に通い始めて三年目である。

 なお、学校は五年間通わなければならないようだ。


「よーし、しっかり見ててねシクル!」

「う、うん」


 ねぇねが両手を前に出したのを見て、俺はねぇねから距離を取る。

 すると、ねぇねの両手の前にピンポン球サイズの白く光る球体が現れる。

 その球体は少しずつ大きくなり、バスケットボールほどのサイズになる。


「んー、いっけー!」


 ねぇねの声と共に球体が発射される。

 球体はそのまま前に進み、五十メートルほどの距離にある木に直撃して、破裂するかのように消えた。


「やったー! 成功した!」


 ねぇねがぴょんぴょんジャンプして喜ぶ。 可愛い。


「シクル見た見た!? 私、魔法使えるんだよ!」

「うん、見たよー。 すごかった」

「でしょ~! 私すごいでしょ~! えっへへ~」


 もう、ねぇね大喜びである。 超笑顔である。


 なるほど、さっきのが魔法か。

 球体が直撃した木には、少し凹みが見える。

 焼けたような跡は見えないから、ただのボールを豪速球で投げたみたいな感じか? でも、スピードはそこまで無かったから、木が凹むのは何でなんだろう?


「ねぇ、ねぇね。 そんなにスピードは無かったのに、なんで木が凹んでるの?」

「え……?」


 喜んでいたねぇねの動きが止まり、頭を傾げて「ん? んんん?」と唸り始める。

 数秒経ち、ねぇねが答える。


「うん、分かんない!」


 いや、分かんないんかーい!

 待て待て、そもそもねぇねは十歳だし、魔法を習ったばっかりなのかもしれない。


「よーし、もう一回やってみるよ!」

「え?」


 勝手に納得していると、ねぇねが魔法を発動し始めたため、俺は慌てて、距離を取る。

 先ほどと同じように、ねぇねの両手の前にピンポン球サイズの白く光る球体が現れ、バスケットボールくらいまで大きくなる。


「んー、よし! もっと大きくするよ!」


 え? これより大きくするの? 大丈夫?


「え、ねぇね? 危なくない? 大丈夫?」

「うん! 大丈夫! 学校でも出来たから大丈夫だよ!」

「そ、そか」


 俺の質問に、ねぇねが自信満々に答える。

 一応念のため、俺はねぇねからもう少し距離を取る。


「ん~!」


 白く光る球体はどんどん大きくなり、前世の運動会で使われるような大玉くらいのサイズになる。


「ん~! よし、いっ…。 あっ」

「……え?」


 大玉サイズの白く光る球体を見ていると、「ボン!」という破裂音と共に、俺の視界が真っ白になる。


「シクル!?」


 気付いたときには俺は吹っ飛ばされ、地面に横たわっていた。


「シクル! ねぇ、シクルってば!」


 ねぇねが駆け寄ってくる。

 おそらく、ねぇねの魔法が暴発したのだろう。 全身が痛い。


「返事して、シクル! ねぇ、シクル!」


 意識が薄れてきた。

 もう、二度目の人生終了なのか。 早かったなー。


「ねぇ! シクル!!」


 俺は意識を失った――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る