第5話 俺の知っている牛じゃない

 プリーム村――イニティム王国の東南部にあり、街とまではいえなくとも、そこそこに大きい村。 俺がこの世界に転生してから三年間、暮らしている村である。


 俺は今、ねぇねに手を引かれ村内を散歩している。

 ちなみに、両親に外出の許可をもらっていないため、怒られる可能性が高いのは考えないようにしている。 怒られたとしても、勝手に外に出たねぇねが悪い、うん。

 それに外に出たことは、これが初めてではない。 だから、迷子になることはないと思う。 この村、治安良さそうだし。


「あ、シクル見て見て! 牛さんだよ!」


 ねぇねが指を指している方を見ると、牧場があり、そこには牛がいた。 牛と言っても、前世で見たような牛ではないけど。


 まず、前世の牛にプレートアーマーを装着させたかのような姿をしている。 そして、その角は二本角ではなく、額から一本伸びており、先端は尖っておらず、球体のように丸くなっている。

 体色は、全身が黒く、角は白い。 ただ、腹部は薄いピンク色をしている。


 うん、この姿を見て、牛だと思う人はいないだろう。 プレートアーマーを着ているし、一本角で先端は丸いし。 それに、プレートアーマーは人が着せたのではなく、牛が成長とすると勝手に現れるらしい。

 少なくとも、俺の知っている牛じゃない……。

 でも、こいつの鳴き声、「モー」なんだよな。


「シクル、牛さん見に行こ!」

「え、ちょっ」


 脳内一人語りをしていると、急にねぇねに手を引っ張られた。 そして、そのまま牧場に連れて行かれる。

 牧場には柵に囲われた放牧場と家畜小屋、牧場主の家があり、現在、放牧場に数頭の牛たちがいる。


「うーん、サイズは牛より少し大きいのか?」

「ん? 何か言ったシクル?」

「え、あ、いや何でもないよ」


 おっと、つい独り言が出たようだ。

 ちなみに、この牧場には前から何回か来ている。 家から近いし、柵越しだけど、この牛たちと触れ合うことが出来るので、ねぇねが気に入っている。


「そう? よし、牛さんおいでー!」


 ねぇねが呼ぶと、牛たちがこっちに向かってくる。


 それにしても、この牛たち頭良いんだよな。 エサを持っている訳でもないのに、呼ぶとみんな寄ってきて頭を撫でさせてくれる。


「んー、よしよし」

「モー」


 ねぇねが笑顔で牛を撫でている。

 うん、写真を撮ってアルバムに入れたい。 くっ、スマホやカメラがあれば、良かったのに!

 そもそも、この世界にスマホやカメラはあるのか?

 いや、今はそんなことどうでもいいか。


「うん、よしよし」

「モー」


 とりあえず、俺も牛を撫でる。

 うーん、表情が変わらないから、分からないけど、喜んでいる気がする。 多分。


「お、ラディスんとこのチビたちじゃないか」


 牛を撫でていると、家畜小屋から牧場主であるタルスさんがやってきた。

 タルスさんは、いつも俺達が牧場に来ると、牛と触れ合わせてくれるうえに、この牧場で作った牛乳とお菓子をくれる麦わら帽子のよく似合うおっちゃんだ。


「おじさんこんにちは!」

「こんにちは!」

「おう、こんにちは」


 俺たちが挨拶をすると、タルスさんも良い笑顔で挨拶を返してくれる。


「今から休憩に入るんだが、二人とも来るか? 今日はちょっと寒いし、ホットミルクとパンケーキを用意しようと思ってるんだが」

「ううん、今お腹空いてないからいい」


 タルスさんからのお誘いをねぇねが即断る。

 あの、ねぇね、俺はパンケーキ食べたかったんだけど……。


「そ、そうか……」


 ほらー、断られたタルスさんがすごい落ち込んでいるよ。


「ま、いーか。 俺は戻るから、牛たちにイタズラはするなよ?」

「うん! 牛さんには優しく、だよね!」

「ん、その通りだ。 それじゃあ、またな」


 俺たちが「バイバイ」と手を振ると、タルスさんは家に帰っていく。


 その後、牛たちを撫でたり眺めたりしてから、俺たちは牧場を後にした。



~あとがき~


 更新が遅れて、本当にすみませんでした!

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