LIMIT0:プロローグPartFinal

「そこのやけに息巻いているお二人! ええっと…… 界進カイシンエツ君と大嶽オオダケツルギ君だね!? 君たちが学校を襲った奴らを倒したのかい!?」


 白いブーツにジャケットを着た褐色肌の女性が輸送機から降りると、ミステリーサークルに似た形状のピアスを揺らし、サングラスの奥から鋭い目線を2人に向けながら大声で問いかける。

 なぜ大声なのかというと、彼女の後ろではローター音が響いているからである。


 そして、2人は名指しで呼ばれたため返事をするしかなくなった。


「まずこちらから聞きたい! 貴女は何者で、初対面なのになぜ俺達の名前が分かるのですか!?」


 越は感情の起伏なく、疑問を女性に投げかえす。


「ま、確かに私のような輩が襲撃直後に来たら誰だって警戒ぐらいはするだろう!」


 越と剱の気持ちを和らげるためにサングラスを外すと、この世の光が一点に集中したかのように金色に輝く目が現れる。

 

 そんなことわざがあるが、彼女の中には、今の彼らには詳しくは分からないが、何か強い意志を持っている事が感じ取れた。


「だとしたら覚えてくれ! 私の名前はマハマト千紗チサ! こう見えて霊媒師をやっている者だ!」

「霊媒師だぁ!? なんでそんな人がでっけぇ輸送機から降りてくんだ!?」


 それでも剱が懐疑心たっぷりの目で片眉を上げると、ヘリのローターが止まる。


「君たちの質問の答えは、機体の中に入るなら教えよう。それに、私もまだ君たちの質問の答えを聞いてないしね」


 その言葉を聞いた越と剱は背を向け、肩を組んで小声で話し始める。


「どうする? どう見たって向こうの奴らと同じぐらいヤバいぜ? 俺の直感がそう言ってやがる」

「だがそれでも、俺たちは何も知らないんだ。俺たちの持つ謎の力に襲撃者の素性などな…..」


 後ろでじっと待っている千紗を少し振り返る。


「仕方ないが今は大人しくあの人たちの質問に答えて、聞き出せるもんは全て聞き出す。その後だったら、俺たち2人なら中でもなんとかなるさ」

「……それもそうだな。そんじゃ乗ってやるとしますか」


 話し終わり、2人は視線を千紗に戻す。


「話が済んだようだね。ならばもう一度聞こう。君たちがあの襲撃者達を倒したのか?」

「「そうだ」」


 同時に答える。


「ならば、輸送機には乗るかい?」

「もちろん、今のところはそれしかなさそうだしな」


 剱は肩をすくめる。


「それならば良かった。だったら早速入ってく──」

「待ってください!」


 後ろから突然、時雨が大声を出す。


「あの娘は…… 天田テンダ時雨シグレか……ほう、彼女も【能力者】だったのか……」


「時雨!? お前は危ないから皆のとこに帰ってろ!」

「千紗さんと仰いましたね! 越くん達が行くなら、私も連れて行ってください! 私の力が役に立つはずです!」

「『私の力』……って時雨……?」


 『時雨が謎の力に目覚めた』、それと同意義の発言に、越は驚きで言葉が上手く出せなくなっている。


「あぁそうだった……! 色々あったからお前に伝えそびれたが、俺が助けた女子によると、時雨のヤツ、他人を癒す力に目覚めたらしい」 

「ハ?」


 剱の付け足しも合わさり、越はついには素っ頓狂な声をあげる。

 突然起きた襲撃、突然全快した自分の身体、突然やってきた自称霊媒師……なんとかそれらを飲み込んでた矢先にこれだ。

 次々と湧いてくる新情報に、彼は限界を迎えつつあった。


 剱はそんなダチ公の肩を《ガシッ》と掴む。


「まずは落ち着いて聞いてくれ、いいか?」

「本来なら、ここに避難している人たちの中には大きな裂傷やお前が負ったような火傷で緊急搬送されるところだろうが、全員無傷か軽傷でスス被ってるだけで済んでるだろ?」

「あぁ……そうだが……確かに一瞬だけ違和感を持ってたが……まさかそれだけで信じろと……?」

「信じ難いだろうが、女子の証言と生存者の健康状態は事実だ。それを踏まえれば、時雨が俺たちと同じ力を持つようになったと考えても、なんら不思議じゃねぇだろ?」


 剱の言動、同意を求める真摯な目と相手の理解が追いつくように話す速度、によって越は徐々に冷静になる。


「分かった……がしかしだ、彼女まで巻き込む必要はないと思うが?」

「さっきまで時雨がいなかったから同意してたが、あぁ言ってんだ。正直この際に一緒に連れてったほうが、彼女のためになるんじゃないか?」

「『また学校を襲う輩が来るかもしれない』からか?」


 長年一緒にいる親友の考えをある程度読めるが、越はあえて確認するかのように問う。


「それもあるが、改めて思えば、力を持つ俺たちがしばらく側に居るのが良いだろうし、何より霊媒師のあの様子だと時雨に目をつけてるようだからな。俺たちの預かり知らぬところで、時雨を危険に晒したくはねぇだろ?」


 越は、親友の言葉に逡巡する。

 これからヘリの中で何が起こるか分からないが、これからの時雨の身の安全や学校のことも分からないからだ。

 しかし迷っても仕方がない。

 苦渋の決断にはなるが、誰にでもいずれ行動を起こす時が必ずある。

 彼にとっては、今まさにその行動を起こさなければならない時が来ただけだ。


「千紗さん!」

「なんだい?」

「彼女の、天田時雨の安全は、保証してくれると約束してもらえますか?」

「約束することを先祖の御名みなに於いて誓おう!」


「時雨!」

「何!?」

「無茶は金輪際一切しないと約束しろ!」

「えぇ! 分かった!」


「剱」

「応よ。これ以上は言わなくても分かってる……っつうかもう既に腹括ったろ?」

「ハッ、そうだったな……やっぱお前がいると心強いわ……」


 そして4人は乗り込み始めると、その中はいかにも洋画で見るような作りになっており、機体の壁側に背もたれがあるシートが二つ置かれていた。

 既に5人の搭乗者もいた。


『こちらホーク1、聞こえるか?』


 パイロットが通信を始める。


『こちらオペレーター、用件を』

『班長が件の少年を保護した』

『了解、到着5分前には合図を送るように』

『了解』


『それでは間もなく本機は離陸する。各自しっかり掴まっとけ』







「さて、機体も発進したことだし、約束通り君たちの質問に答えたいところだが……その前に私の班のメンバーを紹介しよう。知らない人に囲まれては落ち着くこともできないからな。そうだろ?」


 実際に時雨が、機内で千紗以外の人を見かけた時から、少しだけ恐怖心を抱いている。

 そこから越と剱2人は、より一層警戒している。

 そのために、場の空気は非常に張り詰めていた。


「確かに……」「そりゃそうだな……」

「それではよろしくお願いします」


 越、剱、時雨は口々に賛同する。


「うむ」と頷いてから千紗は紹介を始める。


「まずはパイロットのアードラー、ドイツ人でかつて空軍に所属していた腕利きだ。後で改めて挨拶しておくと良い」


「次は私の列に座ってるメンバーだな。隣に座る刃物だらけの男はジャル・J・ジャック、イギリス系オーストラリア人で気が荒い新人だが剣術は確かだ」


 そのジャックは返事はせず、腕組みをしながらただ頭を下げる。

 越たちも頭を下げる。


「その隣の魔女帽子を被った女性はキシー・シシス、オランダ人で引っ込み思案だが植物についての知識は豊富だ」

「……Ha……Hallo……」


 どもりつつモジモジしながらも挨拶するシンシア。

 そんな彼女はチリチリの赤毛でメガネをかけていた。

 服装は童話の魔女をイメージしたような物で全身が紫なために、リッパーの白い服装との対比で目眩を起こしそうになるほどであった。


「「「ハロー」」」


 精神で、3人は拙いオランダ語で返す。


「それと1番奥で座っている巨漢はロウ力剛リーガン、中国人でこのチームのエンジニアだ」


 力は恥ずかしそうに頭を掻きながら、笑顔でお辞儀をする。

 越たちもお辞儀する。


(なんだか思ったより雰囲気が、約1名除いて、丸い人たちだな……)


「今度は君達の方に座っているメンバー。髭を貯えている迷彩服の男はコマンド、アメリカ人でかつて傭兵稼業をしていた」

「Hello!」


「ニコッ」と作り笑いでなく“喜”が前面に出てる顔で、男は挨拶する。


「「「Hello」」」

「コマンドは通り名で本名は信頼された人にしか教えない主義でな。私からは言えないから、親交を深めてから聞かせてもらえ」


「次に君達の隣に座っているベレー帽を被った女性はサラス・グラネス、フランス人で槍術に長けている」

「こんにちは!」


「こんにちは!!!」

「「こんにちは」」


 機体に架けられているレールについてる吊革を持って、サラスは席を立ち上がると、握手を3人と順番に交わしながら元気に日本語で挨拶する。

 その中で誠実さの物理的存在ツルギは、倍の勢いで真摯に返す。

 この時には、剱の顔から次第に緩んでいた皺が完全に消えた。


「彼女は日本のサブカルチャーのオタクでもあるから、日本語はこのチームの中では上手い」


(『サブカルのオタク』……?)(『オタク』だと?)


 越と剱はサラスにシンパシーを感じ、今度は越の顔の皺も消えた。


「最後に改めて、私はマハマト千紗、アフリカ人の父と日本人の母を持つハーフで霊媒師……そして監視者ウォッチドッグス、この班のリーダーだ」

「以上の7名で全員だ。それと今から約束通り、何でも質問して構わないぞ?」


「……では遠慮なくもう一度質問しますが、俺たちの力はどういったもので、どうやって名前を知ったのですか?」

「そして最後に、今日学校を襲った連中は一体どんな奴らなんです?」


 越が先発として、紹介の終わりから少し間を置いて質問する。


「承知した、一つ一つ丁寧に答えよう。まず、君たちの超自然的な力を【能力】、これを持つ者を【能力者】と我々は呼んでいる」


「次に私の能力である【全てを視通す眼バンリガン】」


 そう言うと、自分の眼を指差す。


「視力が常人より優れてるだけでなく、条件はあるものの対象の個人情報や能力の細部、更には幽霊など普通は視認できないモノを全てのが特徴だ。君たちの名前を知れたのはこれのお陰だな」


「そして最後の質問の答えだが、あの連中は7年前から活動を開始した【セイバー教】と呼ばれる宗教の信者だ。奴らは【能力】を神から頂いた【賜物タマモノ】として考え、自らを【賜り者タマワリモノ】と名乗っている危険な連中だよ」


(そういえば、細身のやつがタマモノがどうとか言ってたな……)


「確認ですが、未だにああ言った輩がいるという事は、そいつらの本拠地や教祖などについての詳細は……」

「君の予想通り、隠し事に長けた【能力者】がいるために、現状は一切が不明だ」

「それなのに、なぜ7年前から活動しているのが分かるのですか?」

「実は今向かってる場所では、当時【教団】からの生放送があったんだ。そこで『私達【賜り者】は、皆が家族であり、平等である』、『私達は、今ここから世界を浄化する』など言い出し、同時期に【能力者】が関連する出来事が増加し始めた。要するにその放送は【教団】が誕生したのを表す瞬間であり、世界へ宣戦布告した瞬間でもあった訳だ」

「なるほど……分かりました。俺は以上です」


「次にわたしから。皆さんは一体どういった集まりなのですか?」


 次に時雨が問う。


「我々は【能力者】の保護と観察を目的とする【能力研究所】、通称“ラボ”の所員だ」

「そしてラボは、各国政府がそれぞれ設立した組織の総称でもある」

「先ほど少しだけ話に出ていた目的地は日本のラボのことでね。私は今そこに籍を置いている」


(だからここまで国際色豊かなチームなんだ)


「分かりました。わたしは以上です」


「最後に俺から、家族には会えますか?」


 さっきまでの紹介で警戒心が薄れて緊張感もなくなり、落ち着いた口調で剱は質問する。


「今のところは難しい話だな。一旦研究所で君たちの能力の詳細を観察したあと、上に掛け合っておく。勘違いしないでほしいが、自身の力で誤って家族を傷つけないようにするための観察だからね。それに、まだあの襲撃事件の隠蔽工作が終わってない。辛いだろうが、ここは堪えてもらいたい」


(兄弟と天花には会いたいが……確かに傷つけるような事があったらマズいもんな……)


「……分かった、俺からも以上です」


「ま、そんなに心配しなくとも、ラボもラボで快適に過ごせるように設計されている。例えばフードコートにシアタールーム、ゲームセンターに加えて、1人では持て余すほど広い個室もある。更にはサポートAIが1人1人の体調を管理して、福利厚生も充実している。まさに至れり尽くせりだ」


「『サポートAI』……!?」


 越の内なる好奇心と浪漫が『AI』の2文字に反応する。


「剱……!!!」

「皆まで言うな…….俺もだ……!!!」


 2人はニヤリ顔を見合わせる。


(2人共楽しそうにしてて……)「友情ってやっぱり良いなぁ……」


 両側の男子を見やると、時雨は「クスッ」と笑った。









 そして、ダチ公コンビ越と剱がワクワクしたり時雨に見られたりすること数十分後


『こちらアードラー、ラボを目視できる範囲まで到達した。各自降りる準備を』

((遂に……!))


 パイロットのアナウンスを聞くと、2人は先ほどより落ち着いた様相でいても、内面は感情がピークにまで達そうとする。


(あの海に浮かんでいるのがラボ……?)

「そうだ。正確には家やビルで言うドアだな。まもなくエントランスホールへ入る」


 時雨が窓の外を見ると、海上にはポツンとたたずむ以外はなんの変哲もないランディングポートがあったが、心の中を、千紗に解説される。

 それに並んでポートは、ドーム状の樹脂で覆われてから、海中へ下り始める。


「まさか……」

「その『まさか』だね、越君」

「剱……!!!」「越……!!!」


 目を輝かせている越に、剱もまた1度顔を見合わせる。


「そのワクワクと元気は取っておけ。まだまだこんなものではないし、これからすぐにでも検証にかからないといけないからな。驚き疲れて満足に能力を発揮できないのではその意味がないからな。ちなみに言っておくと、このヘリポートは4つのレーザーで軌道を定めながら同じ箇所に設置してある4つの電磁石で動いてるぞ」


 千紗が穏やかな口調で2人に話すその姿は、まるで好奇心旺盛な少年を教え諭す先生のようであった。


         《ガコン》


 しばらくの間の深海体験を終えたのち、ポートが止まる。


「さてと、たった今着いたところだが、これからラボを案内しよう。こっちの通路だ」


 一行が輸送機から降りると、学生の3人は千紗に連れられ、その先の光へ向かう。

 ポートから目算で100mもの距離があるが、既に電子音や大人数での会話にアナウンスなどが良く聞こえる。


(世界中のエリートが集まるだけあって、かなりの大所帯だなぁ……)


 越はそう思いながら歩みを進める。

 そして光へたどり着き、視界が開くと、3人はあまりの眩しさに一瞬怯む。

 すぐに目が慣れるが、想定していた以上の目の前の光景に、コンビは思わず叫ぶ。


「「凄ェェェェェェ!!!!!!」」

「とても広いですね……」


 通路を抜けた先には辺り一面が白く塗装されており、地面や壁のあらゆる所で電子機器が埋められているため、部屋の名前や通路が赤、青、黄、白、黒などの様々な色の光で浮かび上がっている。

 他にも、イカにもなコテコテの白衣を着た職員に、【能力者】と思われる人たちが各々の目的地へ歩いていた。


「まるでゲームの世界に来たみたいでワクワクするなァ! 剱!」

「あぁそうだな! 好奇心が疼いて思わず探索せずにはいられないなこりゃぁよぉ!!」


 そうして驚いている3人の目の前に、どこからともなく一昔前のアニメに出るような真四角ロボットをスタイリッシュにした四輪脚のロボが現れた。


『ようこそラボへ! 私は【ピポ・メディア】です。気軽にピポと呼んでくださいね!』


 そう名乗る箱型は、自身のフォルムの都合でお辞儀はできないために、頭のモニターで動作を表す。


「「よろしく!!」」

「よろしくお願いしますね」


『皆さんが千紗さんの連れてきた学生ですね! では1度、全身をスキャンさせてもらいますね!』

『これから先、ラボへいつでも入れるための生体許可証を発行するためなので、落ち着いてご安心くださいね!』


 前もって了解を得てから、ピボは頭から緑色の光線を3人に発射する。


「スゲェな……!間近で最新技術の結晶と触れ合えるなんて感動ものだな……!」

「あぁ……! 俺には技術やらなんやら詳しいことは知らんが、フォルムだけでなくこの光線までも一昔前の映画のようだと、なんだか浪漫が溢れるぜ……!」

(なんか私には凄すぎてよく分かんないけどね……)


『スキャン完了! それでは千紗さんと学生方3名は、ぜひ当所の予定通りあちらの部屋へお越しくださいね!』

「ありがとう、ピボ」


 千紗がお礼を伝えると、ピボは別の通路へと去っていく。


「さて……再三言うようですまないが、これから君たちは観察を受けてもらうが、良いかな?」

「はい」「応!」「良いぜ」

「では、こっちだ」


 彼女の誘導に従い、<101号室>と壁に記載された部屋へまで向かう。

 その内部では4人の白衣がモニタールームで待ち構えていて、壁を隔てた先には一見何もないがとてつもなく巨大な部屋があった。


「ようこそ、そしてよろしく……私がこの部屋の室長を務める山田です……」


 丁寧にお辞儀する山田。その30代は異常に痩せこけ、無精髭が生えており、目はどこか暗かった。

 簡潔に言えば、とてもくたびれてる様子だ。


「「「よろしくお願いします」」」

(((大丈夫なのかなこの人……)))


「それでは、これから観察を始めますが、その前にそちらで順番を決めても大丈夫ですか……?」

「ここに来てる以上、既に同意済みだとは思いますが、進んで参加してもらった方がこちらも楽ですしね……」


「ならばこの俺、大嶽剱が先に受けよう! 2人ともそれで良いか!」

「良いぜ」「良いよ」

「決まったようだね……だったら早速で悪いけども、剱君は向こうの部屋へ移ってくれ……」


 そして剱、時雨、越の順番で能力の観察が行われた。







「この1週間ご苦労だった。それと行動を制限してすまなかった」


 千紗は3人を交互に見て、労いと謝辞の意を示す。


「いえいえ、こちらこそ色々ご迷惑をおかけしました。能力のデメリットとは言え、皆さんに危害を加えそうになりましたし……それでも授業にご飯にお風呂、十分な支援を頂きましたので感謝します」

「俺も時雨と同じ気持ちです。ダチ公のだけでなく、学校の関係者や生徒の家族に護衛をつけたのはあなたの指示なんですから、お陰で心配事が減りましたよ」


 そう言いながら自分の家族がいる方向を見やると、道場で弟妹と一緒に竹刀を振るったこと、剣道部の大会で優勝した祝いに豪勢な和食を用意してくれたこと、初めて許嫁の伊剣天花イツルギテンカと会った時のこと、これまでに過ごしてきた日々を思い返す。

 やがて視線を千紗のもとに戻すと、やおらに口角を上げる。


「……とは言っても、俺の親父はその必要はなさそうですけどね」

「確かにお前の父さん、生まれる時代違うだろ、ってぐらい剣術強いもんな」


 剱は「へっ」と父を信頼しながら笑い、越はそれに相槌を打つ。


「ただ、本当に良いんだな? ここに移住すると言う話は?」

「それって今更言います?」


 越が「ヘラッ」と笑いながら返す。


「『胡散臭い宗教団体が世界征服をしようとしている』って話聞いてちゃ、「はぁそうですか」と納得するだけにはいきませんよ。俺だって爺ちゃんから格闘技習ってますし、多少は世界を救うのを手助けさせてください」


(遠回しに家族も守れるしな)


「分かった……空き部屋はたくさんあるから3人増えても支障はないしね……それでは、全員荷物を取りに行って来い」


「分かりました」「応!」「了解、殿

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